2015年2月例会レポート

日時 2015年2月27日(金) 18時30分〜20時30分
会場 奈良市中部公民館
講師 村内俊雄さん(奈良市観光大使交流会代表、登美ヶ丘北中学校区地域教育協議会会長)


1.講演要旨


(1) プロフィール

  • 奈良に生まれ育ち、30歳のときに仕事のため県外に転出して改めて奈良というふるさとの魅力を実感した。
  • 大学4年のとき、障害を持つ人たちと一緒に奈良の町を歩くイベントを企画し、メディアによる協力もあって多くの学生が参加した。実際に歩いてみて、奈良の町が障害者にとっていかに歩きにくいかを認識するとともに、さまざまな人たちと共に行動することの大切さを学んだ。
  • 就職した企業(オリックス)は相手のニーズをキャッチしてそれに応える提案型営業が特色。また、急成長した会社なので若いうちから責任ある仕事を任せてもらえた。こうした仕事の経験を通じて、社会的ニーズを把握する方法や組織を運営するためのリーダーシップなどを学び、それが今の活動に生かされている。
  • 55歳のとき奈良県の公募に応じ、全国初の公立中学校民間人教頭となって3年間教員生活を送った。この3年間はこれまでの常識がなかなか通用せず苦労したが、教育者としての経験を積めたことやその間に作り上げた人脈が自分の財産となっている。
  • 教師という素晴らしい体験をしてきた人たちが、定年後の第二の人生でそれを生かさないのはもったいない。若い人たちも、仕事で得た知識や経験を積極的に別の分野で活用してほしい。次の世代を育てることも我々の使命。
  • 現在、奈良家庭裁判所の調停委員も務めている。案件の多くは離婚に関するもので、現在の社会のいろんな問題が背景にある。



(2) 地域で決める学校予算

  • 文部科学省の「学校支援地域本部事業」を引き継ぐ形で、奈良市の独自事業としてスタート。22の中学校区ごとに地域教育協議会を設置し、地域(自治会、企業、NPO、各種団体、公共施設など)が学校(中学校だけでなく校区内の小学校や幼稚園も含む)を支える仕組みを整えている。
  • 年間事業予算は約9000万円で、こうした取り組みは全国的にも珍しい。

(3) とみきたスクール

  • 登美ヶ丘北中学校区の地域教育協議会を皆にわかり易くする為に「とみきたスクール」と呼んでいる。同校区は住民の60%が奈良以外に通勤し、近鉄けいはんな線の開業もあって住宅開発が進み人口が増加している。登美ヶ丘小学校区は市内で唯一自治連合会組織がなく、また東登美ヶ丘小学校区は自治連合会が組織されているが多くの自治会が未加入で、PTAも4年前にできたばかり。
  • 自治会、学校、PTAなどのほか、イオン登美ヶ丘、登美ヶ丘高校、奈良文化女子短大とも連携。
  • サマーセミナー平成24年度から夏休みに開催。子どもから大人まで一緒に学べるプログラムで、学校では学べない専門性の高い講座を開講。
  • とみきた塾…サマーセミナーをきっかけに平成25年度からスタート。農園、昆虫、おやじ、理科実験おもしろ、地域学習、ミンゾク学などのクラブがあり、延べ400人以上が参加。11月に各クラブの活動発表会を開催。おやじクラブは父親の教育力を高めることがねらいだが、父親同士の親睦の場ともなっている。
  • 登美ヶ丘フェスタ平成26年9月に初めて開催された、芸術・文化を中心とするイベント。全国有数の住宅地である登美ヶ丘のブランド力を高めることを重視し、地域特性を生かしたお洒落な催しを目指した。登美ヶ丘中学校と大阪桐蔭高校の合奏などを行い、2000人以上が来場。開催にあたっては県からも補助を受け、さまざまな企業の協賛も得ることができた。
  • 東大寺・寺子屋東大寺が主催で読売新聞わいず倶楽部の支援で平成26年8月に開講。二月堂の宿坊で子どもたちを対象に2泊3日の宿泊体験。小中学生20人が読経を体験したり境内を見学するなど、世界遺産を身近に感じる機会となった。大人のスタッフも二月堂での宿泊という貴重な体験ができ、大好評であった。

(4) ひつじプロジェクト

  • 登美ヶ丘北中学校の西斜面が放置された状態で雑草が伸び放題だった→防犯や景観の面から問題となり、地域で話し合ったところ「ひつじを放牧して草を食べてもらう」というアイデアが出された。
  • 子どもから高齢者まで多くの人たちが作業に参加した。また、生徒たちは4頭のひつじに名前をつけて可愛がり、山添村に帰ったひつじに家族連れで会いに行ったりする生徒も。


(5) トレドとの国際交流

  • 姉妹都市のトレド市を、市長の親書を持って自費で訪問。現地では姉妹都市提携の記念として、新設の小学校に「ナラ」の名前をつけている。
  • 奈良女子大学の大石正教授らと共に姉妹都市提携40周年記念事業の実行委員会を設立。スペイン音楽のコンサートのほか、「トレド・ウィーク」と銘打ってさまざまな催しを開催。当初、市としては何も事業を計画していなかったが、民間主導の動きに乗る形で記念事業を支援した。

(6) まとめ

  • 登美ヶ丘フェスタとひつじプロジェクトは特に大きな成功を収めることができた。ただ、これを単発の風船を打ち上げただけに終わらせるのでなく、地域の課題解決や地域住民のコミュニティ強化に向けて着実に取り組みを積み重ねていくことが大切。



2. ディスカッション・質疑応答

  • 観光振興について、スペシャリストの育成が不可欠。

 →(村内)リーダーシップが重要。奈良の観光振興がなかなかうまくいかないのは、1つには変化を好まずのんびりした県民性があるのではないか。

  • 平成25年に奈良市長らがキャンベラを訪問したが、多額の予算をかけて交流に行くならもっとしっかりした目的意識を持って行くべき。また、民間主導の交流が大切。
  • 地域教育協議会の予算が、地域と学校の連携事業ではなく学校の備品代などに使われている実態があるのではないか。

 →(村内)多くの地域では住民から地域教育協議会の活動が見えていないことが問題。

  • 地域教育協議会が小学校区ごとでなく中学校区ごとに設置されているため、使い勝手が悪いという話も聞く。

 →(村内)協議会自体は中学校区単位で設置されているが、協議会から校区内の小学校や幼稚園にも予算が配分されている。

  • 登美ヶ丘フェスタやひつじプロジェクトのような地域活性化の取り組みを、他の地域にも広げていくことが必要.奈良市は観光政策についても教育政策についても、内外にPRする姿勢が欠けている。

 →(村内)登美ヶ丘フェスタについても市広報では掲載されなかった。

  • さまざまな団体や企業とうまく連携するコツは?

 →(村内)V(ビジョン=自己満足に陥らず、明確なビジョンを持つこと)・W(ワーク=積極的に自ら動くこと)がポイント。

  • ひつじを飼うのは難しくないのか。

 →(村内)最初は心配したが、ひつじは案外強い動物。昨年は真夏の間は山添村に返していたが、今年は春から秋までの期間を通して借りる予定。

  • 登美ヶ丘フェスタの準備にはどれくらいの期間と人手が要ったのか。

 →(村内)昨年3月に十数人で実行委員会を立ち上げ、10回ほど会合を重ねながら準備してきた。当日のボランティアスタッフについては、自治連合会を中心に100人以上集まってくれたが、事前のミーティングは9月の1回だけ。