12月7日、政策研究ネットワーク「なら・未来」の主催で、「自治会の未来を考える」と題したセミナーが開かれました。奈良市自治会長を務める次の3人の方をゲストに迎えての会です。

田中宏一さん(中ノ新屋町自治会長、奈良町にぎわいの家館長)
中ノ新屋町は奈良町南部に位置する古い町で、自治会もいつごろできたかわからないほど昔から存在しているそうです。田中さんは約30年にわたって、奈良町のまちづくりに関わりながら自治会の役員も務め。6年前に自治会長に就任しています。自治会の加入率は高いのですが、「新しい住民は会費だけ払って会員としての意識が希薄な人が多い。そういう人たちと古くから住んている住民との交流が課題」と話します。

・笹部和男さん(元神功一・二丁目自治会長、神功地区自治連合会長)
 神功地区は昭和40年代半ばから開発された平城ニュータウンの中にあり、開発・住宅建設の拡大に応じて自治会も分割されています。男性の大半は大阪・京都に通勤しているというベッドタウンで、高齢化も進んでおり、役員を出すのが難しいという理由で自治連合会から脱退した自治会もあります。神功地区自治連合会では、役員経験者によるサポートクラブを結成して現役員を支えていますが、「会計のような専門能力を持った人材の確保が課題」といいます。

・木原勝彬さん(今市町一丁目自治会長、ローカル・ガバナンス研究所長)
 帯解寺があり、江戸時代の旧今市村は興福寺領だったという歴史を持ちます。中心市街地からは少し外れ、田園風景も残る土地柄。自治会にとっては春日神社の秋祭りが最大の活動とされています。自治会長になると、春日神社氏子総代や帯解地区人権教育推進委員など10を超える役職を兼務しなければならず、他の役員も負担が大きいため、役員のなり手がいないことが深刻な課題となっています。また、今市町一丁目には北ノ町、中ノ町、南ノ町があり、それぞれ別の町内会を組織しており、一体感が損なわれていました。そこで、今年度から一本化に向けた検討を進め、来年1月28日に一体化した新自治会が発足する予定です。

 主なやりとりは次のとおりです。
木原 自治会が不要と考える人が半分くらいはいるという現状で、自治会の存在価値はどこにあると思うか。
田中 奈良町は観光客が増えて、それに伴うごみの問題などが深刻化している。自治会の意義は、そうしたトラブルがあったときの相談窓口になれること。近年は古い町家を買ってゲストハウスを営んだりする人も増え、よく知らない住民が増えた分不安要素が高まっている。そのため、防犯活動に対する期待が大きい。
笹部 住民にアンケートを取ったところ、自治会に期待することとしては、野良猫対策、防犯対策などが挙げられた。できるだけ多くの住民に参加してもらうためのきっかけとして、男の料理教室を始めた。自治会が中心になって高齢者が社会参加する機会を提供することは、大きな意義がある。みんなと共同で作業するのは楽しい。自分は義務としてではなく好きで活動をしている。
木原 役員が交替するときにきちんと引継ぎが行われていないケースが多い。引き継ぐ内容を文書化して残すことが必要ではないか。
笹部 60件ほどの規模だったらあまり難しいことを考えなくてもいい。
木原 自治会に入ると自動的に地元の神社の氏子にもなるという仕組みの地域も多いが、キリスト教信者などの場合は自治会長に相談すれば氏子にはならなくていいようにするなど、個別的な対応が求められる。
 道路や河川など地域のインフラ管理に対しても自治会長は大きな責任を有しているが、行政に要望を出してもきちんと対応してくれなかったり、事前の連絡なしにいきなり工事を始めて終了の連絡もないなど、体制がしっかりしていない。
 奈良市が地域自治協議会の設立を進めようとしており、12月の広報でも大きく取り上げられているが、この件についてどう思うか。
田中 自治会に限らずさまざまな地域団体があり、活動が衰えている団体もある中、情報共有する必要性は高まっており、その意味では地域自治協議会のような組織が必要。ただ、条例をつくってがんじがらめにするのでなく、まず既存の地域団体同士の交流促進が重要。
笹部 奈良市で地域自治協議会をつくる必要は全くない。連合会があるのになぜ新しい組織が必要なのかが全然説明されていない。自治会の組織率が低下しているから新しく地域自治協をつくるというが、地域自治協をつくったら参加者が増えるとどうして言えるのか。市に聞いたら、「それは地域で考えてもらうしかない」との回答だった。将来的には一括交付金で地域への補助を一本化するということも聞くが、そうしたらボス的な人間が現れて地域を牛耳ることになりかねない。
田中 行政だけでは公共的な役割を担うことが難しくなり、何かあったときの互助・共助が大切ということは理解できる。特に奈良町はそれぞれの単位自治会の規模が小さく、連合自治会の役員にすべての負担がかかっているような状況がある。それを、地域自治協の中で役割分担できる形になればいい。
参加者 地域自治協について、市の澤ノ井部長からは何の説明もないのか。
笹部 具体的な説明は何もない。今回、広報への掲載を強力に働きかけたのは自治連合会。
参加者 今の自治会・連合自治会を中心とする体制でやっていける地域とそうでない地域があり、両方を一緒くたに考えるのが間違い。
参加者 豊中市は連合自治会がないので、新しい地域自治協議会をつくる意味があった。奈良市はそうではない。
田中 地域差をきちんと踏まえた協議会づくりなら意味がある。
参加者 自治連合会は50あるが、そのうちどのくらいの割合が地域自治協議会に前向きなのか。
参加者(市議) 50の中で検討委員会に入っているのは27。うちの地元でも、今年各組織が集まって夏祭りを成功させ、その後検討委員会に入ったが、「乗り遅れてはいけないので」というのが理由。
参加者 地域のことは地域でという原則はその通りだと思うが、具体的な地域課題に即して考えないと本当の必要性は見えてこない。今最も切実なのは子育て問題。
木原 地域コミュニティのあり方に関する根本的な議論がなされていない=コミュニティ政策がないことが、奈良市の最大の問題点。
参加者 自治会活動の一丁目一番地は防災。5000年動いていない断層があり、近々大地震が起こる可能性は高い。日本独自の自治会という組織があるのは、こうした天変地異に備えてお互いに助け合うことが不可欠だから。東日本大震災を見ても、行政の機能が失われて自分たちだけでやらなければいけない場合が出てくる可能性がある。
木原 「なら・未来」としては、今後も引き続き地域自治の問題を考えていきたい。