5月例会報告 地域民主主義のイノベーション」
5月例会を開催しました。
テーマは木原勝彬さんによる「地域民主主義のイノベーション」
政策研究ネットワーク「なら・未来」の5月例会が、5月30日(金)に奈良市ボランティアインフォメーションセンターで行われました。今回は、「なら・未来」の前代表幹事でローカル・ガバナンス研究所長の木原勝彬さんに、「地域民主主義のイノベーション」と題する基調報告をお願いしました。
地域民主主義とは、「市民による、市民のための、市民の自治体」を目指す実践活動
木原さんはまず、自身の市民活動を3つの期間に区切って振り返りました。
①奈良町の町並み保存・再生運動(1978〜1996)
②市民・NPOと行政の協働型政策形成、持続可能なコミュニティづくりの推進(1997〜2005)
③マニフェスト選挙の推進、市民主権型自治体の構築(2004〜)
そして、「なら・未来」を中心とする第3期の活動の目的を、「地域民主主義のイノベーション、奈良市政の改革」と位置づけています。「民主主義」の定義についてさまざまな文献を引いた後、「なら・未来」が目指す地域民主主義の構成要件を、「市民主権」をベースにした次の5点と捉えました。
①社会契約による政府の設立という認識
②二元代表制の活用
③市民社会の活性化
④参加の充実・強化
⑤自治・分権の充実・強化
そして、地域民主主義を「主権者である市民が、(中略)自分たち(地域)にかかわることがらは自分たちで決定し、自分たち(地域)で実行する自治活動を通じて『市民による、市民のための、市民の自治体』の構築を目指す、永遠の実践活動」と定義しました。その基底にあるのは、自治体は自治体市民と自治体政府で構成される政治的共同体であり、市民は自治体政府の構成者である首長と議会に全権を委任したわけではないこと、市民は主権者として二元代表制を使いこなしながら自治体政府を統制する立場にあることの認識です。
2009〜2013年の4年間を市民の信託による政府活動期間と位置づけ
続いて、「なら・未来」の活動のうち、2009年7月12日の奈良市長選・市議選から2013年7月21日の同選挙までの4年間(この期間を市民の信託による奈良市政府としての活動期間と位置づけます)に絞って、その取り組みを紹介しました。
・2009年の市長選・市議選に際してのマニフェスト型討論会
・行政への政策提案活動…まちづくりビジョン検討会、行政改革市民会議、「立ち上がろう奈良市民!」フォーラム①、市政改革7つの提案
・議会への政策提案活動…奈良市議会報告会&フリートーク、議会改革市民会議の開催、第2回議会改革フォーラム、議会改革10か条の提案
・マニフェストの検証・評価活動…仲川市長の「奈良マニフェスト」の検証・評価、立ち上がろう奈良市民!」フォーラム②
・2013年7月21日の市長・市議会議員選挙に向けたキャンペーン…HPに選挙特設コーナーを開設、市長マニフェスト要件・議員マニフェスト要件の設定・公表、市民と立候補予定者の対話集会、市長立候補予定者、議員立候補予定者への公開質問、現職市長・議員の在任活動評価、マニフェスト型公開討論会
こうした4年間の多彩な活動を振り返って、次のように総括しました。
・総じて市民会議やフォーラム、対話集会等への参加者が少なかった。これは市民だけでなく、市職員、議員についても言える。・市民の政策や市政改革、議会改革に対する関心が総じて薄い。
・市長・行政・審議会は市民の政策提案を真剣に受け止めようとしない。仲川市政について、根本的・構造的な改革がなされていない点を一貫して指摘してきたが、その声が届かなかった。
・議会(議員)も市民側からの議会改革の動きを真剣に受け止めようとしない。
・マスコミもこうした先進的な市民側の政策提案活動を重視せず、ほとんど報道しない。
・市政改革に絞り込んだ政策競争型選挙を目指したが、結果はそうならなかった。
そしてこの総括を踏まえ、次のような点を課題として列挙しました。
①市民による市民のための市民の自治体づくり…市民の主権者意識の醸成など②市長・市議会議員選挙の改革…地縁・血縁・後援者依存型選挙からマニフェスト選挙への転換方策の検討など
③市民参加の充実・強化…市民政策提案等の参加制度の充実・強化など
④市民自治の確立…小学校区レベルの地域自治の仕組みづくりの推進など
⑤自由討議の場としての市民会議…総合計画後期基本計画の見直し提案など
このうち地域自治の仕組みづくりについて、木原さんは今年度から地域の万年青年クラブ連合会の会長を務めており、「小学校区単位の地域自治を民主主義のイノベーションの実験場にしていきたい」と自らも取り組んでいく意欲を示しました。具体的には、第1段階(2014〜15年度)で地域協議の場をつくり、第2段階(2015〜16年度)で地域・行政・議会改革の共有と改革に向けた検討を行い、第3段階(2016年度〜)で地域自治システムを構築するという流れを描いています。そしてこれらを、総合計画後期基本計画の見直しに連動する形で進めていこうとしています。
自治会などの地域組織が行政にとって都合のいい組織になっている
発表後のフリーディスカッションでは、活発な意見交換・質疑応答がなされました。主なものは次のとおりです。
・新興住宅地などでは、役員のなり手がおらず自治会が存続の危機にある。自治会の弱体化をどう補えばいいのか→(木原氏)万年青年クラブも事情は同じ。誰でも役員ができるように組織や活動を簡素化していこうとしている。・地域自治組織を立ち上げても、中心的な担い手は特定のグループや個人に偏ってしまいがち。地域全体の意見をまとめる仕組みが必要ではないか→(木原氏)松阪市では審議会や委員会で話し合われたことを市民フォーラムの場で公開して市民の意見を聞き、そのうえで答申する仕組みをつくっている。そういった工夫が必要。
・自治会のような地域組織は、まず遊びでもいいからメンバーが仲良くなることが大切。仲良しのグループがどんどんできたら、次のステップに進める。
・まとまりのない組織ほどいろいろな問題が出てくる。
・陳情や請願は自治会などの住民組織だけが提出することができるようにして、議員は市政全体のことを考えるようにすべき。
・自治会にしても老人会にしても行政にとって都合のよい組織になっている。住民がその機能を評価するような組織にしないといけない。自治会は世帯単位であり、現代の市民にとって必要性が薄い。
・自治体を変えるには、先進都市の事例を紹介するなどある種の外圧が必要。
・「上等な百姓は土をつくり、そうでない百姓は野菜をつくる」という言葉があるが、まちづくりも同じ。
・宝塚市では「協働のまちづくり促進委員会」が昨年度設置され、市民委員が協働のまちづくりについて検討する仕組みをつくった。
・普通の市民は小学校区単位のような自分の住む地域の範囲にしか関心が向かない。全市的な課題について市民の意見をどう市政に反映させるかが課題。
・市民も行政に対して政策提案を行う能力をつけることが大切だし、行政もそうした市民の提案を受け止めて検証する能力を身に付ける必要がある。
・横浜市では、数十年後の地域の変容をシミュレーションしてその結果を市民に見せる工夫をしている。そうすると住民も、自分たちの地域の将来について関心を持ちやすくなる。