御所市の財政再建と今後の展望


「なら・未来」8月例会は、御所市の東川裕市長をゲストにお招きしました。東川市長は酒店を経営する家に生まれ、実家を継ぐ傍ら商工会議所・青年会議所の活動に携わってこられました。2008年、生まれ育った御所市の財政危機を救おうと市長選に出馬し、当選。5年間で実質収支を黒字化する目標を掲げ、2年前倒しで目標を達成しました。その取り組みは、奈良市にとっても少なからず参考になるはずです。





1.東川市長の発表要旨


(1)御所市の財政事情


  ・平成20年度一般会計決算は実質収支が13.1億円の赤字で、早期健全化団体となった。しかし、2011年度に41年ぶりの黒字となり、2012年度も黒字決算を維持。ただ、2012年度の国民健康保険事業特別会計は2億8000万円あまりの赤字で、年々その額は膨らんでいることが大きな課題。
  ・地方債残高は2008年度に240億円ほどあったが、年々減って2012年度は180億円ほど。
  ・基金残高は2012年度末現在22億5000万円ほどで、2008年度の約3倍に増えている。
  ・市税徴収率は2008年度に83.8%だったのが2012年度には過去最高の92.8%。集金はせず、督促状と差し押さえという手続きを粛々と実行したことが効果を上げた。ただ、市税収入額は固定資産税の評価替えの影響もあり減少傾向。
  ・歳入と歳出から見た御所市の課題は、①自主財源比率が低いこと、②人件費・公債費は抑制しているが扶助費の伸びが著しいこと、の2つ。2003年度と2012年度を比較すると、人件費は40%減、公債費は37%減だが、扶助費は31%増えている。
  ・人件費については、職員数を2008年度の452名から2012年度には305名と約3分の1減らし、5年間で人件費を10%削減。主に保育所、ごみの収集、隣保館に携わる職員を削減した。



(2)今後の財政運営の基本方針


  ①経常収支比率95%を維持する
  ②横断的な課題や事業については各セクション間でしっかり調整し、常に財政部局と連携
  ③国・県の補助制度を積極的に探求
  ④前例踏襲的な予算要求を避け、スクラップ・アンド・ビルドの原則で既存事業を見直す



(3)御所市の課題


  ①経常収支比率の高さ…5年間で10%以上改善したが、それでも県内平均を下回っている。2013年度は退職金の支払いが多かったため100を超える見通し。
  ②少子高齢化の進展…2013年度の65歳以上人口比率は33.7%(全国平均は25.1%、県内平均は26.0%)、75歳以上人口比率は17.2%(全国平均は12.3%、県内平均は12.1%)で、全国平均及び県内平均を5〜7%上回る水準で推移している。日本の近未来の縮図と言える。
  ③1人あたり医療費と生活保護率の高さ…2012年度の1人あたり医療費は33万7000円余りで、県内平均を2万円以上上回っている。生活保護率2013年度が29.80(それでも2011年度に比べれば減っている)で、県内平均の約2倍の水準。同和対策事業などの影響で公営住宅が多いため、低所得層の人が住みやすい条件にある。貧困と医療費はリンクしており、貧しい生活を余儀なくされる人ほど医療費は高くなる。がん検診の受診率の低さなどから、健康に関心が薄い住民性が課題と言える。



(4)今後の重点事業


  ①京奈和自動車道…御所南インターが今年度中に供用開始
  ②産業集積地(雇用)…交通アクセスの良さ、地価の安さ、災害に対する強さをアピールし、トップセールスで積極的に企業立地を図る
  ③秋津地区遺跡…保存から活用へ
  ④小学校規模の適正化(保育所・幼稚園)…去年の新生児数は117名で、少子化が深刻。小学校が7校あり、統廃合が必要。ファシリティマネジメント強化に向け、今年から公共施設の台帳づくりを始める。市全体の視点から資産の最適化とより効果的な活用を図る。推進にあたっては組織に横串を刺すことが大切。
  ⑤近鉄御所駅前の整備…できることから実践
  ⑥スマートウェルネスシティ…健康寿命を延ばすため、高齢者が家から出てだれかとしゃべり笑えるような仕掛けが必要。



2.質疑応答


<質問>財政改革にあたって、市民・職員・議会の抵抗はなかったか。
<東川>職員については、人件費を20%削減したかったが10%に抑えた。それでも組合と夜中まで何度も話し合ううちに危機感を共有でき、信頼関係ができた。また、私が市長になって管理職がかなり辞めたので職員の平均年齢が若返ったこともプラスに働いた。議会については、最初は健全化計画を空論などと批判されたが、きちんと数字を挙げて説明することで理解を得られるようになった。市民については、補助金を大幅に削減し、団体の運営補助は例外なしにいったんすべてゼロにした。すると、自分たちで努力して資金を集めるようになったり、これまでの予算の半分以下で何倍も楽しい体育祭や敬老会を開催するようになった。これが市民力だと思う。


<質問>職員削減のために早期退職を奨励したのか。また、経費カットで職員がやる気をなくしたりしないか。将来的な投資をどうするのか。
<東川>私が就任する前から退職勧奨制度はあった。職員のモチベーションについては、財政再建という旗が掲げられていたので組合もそこは理解してくれた。投資については、事業についても職員についても大きな課題。1つ例を挙げれば、駅前はまちの顔なのでぜひ整備したい。また、雇用を生んで人口を増やすための投資にも力を入れたい。


<質問>市民は財政危機について理解してくれたのか。
<東川>非常に協力的だった。ただ、「市民が我慢する期間はできるだけ短くしてほしい」というプレッシャーは感じた。


<質問>財政規律を保つためのポイントは?
<東川>公債費比率などは目標を達成したので、今は経常収支比率。95%を保てれば一定の弾力性をキープできる。


<質問>住民には官依存の体質があり、ここを根本的に変える必要があるのではないか。また、税の再配分の方法を見直すなど、地方から声を上げていく必要がある。
<東川>内閣もやっと地方のあり方に目を向けてくれるようになり、内閣改造では地方創生担当大臣が新設され、まちひとしごと創生会議がスタートする。御所市民は幸いなことに「おらがまち」という意識を持ってくれるので、それが大きな力になる。


<質問>財政赤字の時代は我慢していた市民の要求が、黒字になって表面化してきたのではないか。
<東川>「黒字になったらこれをやります」というような約束はいっさいしなかった。ただ、ごみ焼却施設の更新は絶対やらないといけない。


<質問>雇用拡大以外で人口減対策は?
<東川>大事なのは農業。耕作放棄地を減らすための取り組みに力を入れたい。その中からさまざまなアイデアが出てくると思う。たとえば、シャクヤク、漢方、酒米、ひまわりなど。


<質問>国保会計改善のため、レセプトデータのデータベース化によって成果を上げている自治体があるが、御所市として取り組む考えは?
<東川>いますぐには難しいと考えるが、レセプトデータに限らずデータの分析は非常に重要だ。

<質問>産業誘致の手応えは?
<東川>先日の説明会でも非常に反応が良かった。交通アクセスが整っているので、大阪からでも通勤できる。こういった強みをアピールしていきたい。


<質問>①自主財源としてどんなものを考えているのか。②スマートウェルネスシティを推進するとのことだが、医療費をどう抑制していくのか。③隣保館を廃止してどのように活用しているのか。
<東川>①ふるさと納税奈良県でいちばん多い。トップセールスが大事。場外舟券売り場を開設し、1日1000万円以上の売上げがある。1%が市に入るので、基金として積み立て使途を明確にしたい。観光は大切な産業だが、なかなかお金が入る仕組みにすることが難しい。それでも地域の誇りという意味で推進していきたい。②健康教室を開催すると、本来は来る必要のない健康なお年寄りばかり参加する。来てもらうのでなく、こちらから出かけていく取り組みが重要だ。③人権センター、子ども家庭支援センター、文化センター、介護予防センターなどとして活用している。


<質問>御所工業高校の非常勤講師をしているが、川沿いの道がすごくきれいになっている。アドプトシステムによる取り組みと聞いているが、市は関与しているのか。
<東川>地域主体の理想的な取り組みだと思う。


<質問>PFI法が改正されて、運営権をどう取り扱っていくのか。
<東川>PFIに限らず民間活力を生かすことが大切。


<質問>建設業を目指す若者が減っている
<東川>市の採用でも土木職への応募は少ない。ただ、中高一貫の青翔中学校・高校が職員の発案で誕生するなど、教育の町というDNAがあるので、将来に期待したい。


<質問>農的生活を志す若者や有機農業・自然農業に憧れる若者が増えているが、地域とのマッチングができていないのが課題
<東川>そうした若者にとって御所市は非常にいい環境にあると思う。ぜひ応援していきたい。