政策研究ネットワーク「なら・未来」2015年3月例会レポート

日時  2015年3月27日(金)  18時30分〜20時30分
会場  奈良市ボランティアインフォメーションセンター
講師  清水 順子さん(特定非営利活動法人サークルおてんとさん理事長
           一般社団法人 地域未来エネルギー奈良 理事長)


1.講演要旨 〜テーマ 自然エネルギー普及の取り組み


(1) 地球温暖化の現状と見通し
 ・IPCCの第5次評価報告書によると、2100年には最大で1950年比4.8度上昇。
 ・日本は世界で5番目の二酸化炭素排出国。2020年までに2005年比3.8%削減を打ち出しているが、これは1990年比でいうと3.1%の増となる。
 ・2080年代までの温度上昇を2度以内に抑えないと、水不足やマラリア、飢餓のリスクが格段に高まる。
 ・今年12月にパリでCOP21が開催され京都議定書後の枠組みを合意する予定。
 ・原子力発電が地球温暖化防止に貢献すると言われてきたが、実際はそうなっていない。再生可能エネルギーへのシフトと森林による二酸化炭素の固定化が不可欠。



(2) サークルおてんとさんの活動紹介
 *2002年9月 ならコープの組合員5名で「自然エネルギー研究会」発足 後すぐ、「サークルおてんとさん」に改称
   (2015年現在  会員51名  団体会員1)  
  目的:自然エネルギーを利用した市民共発電所奈良県内に広める
 *市民共発電所作り
  2002年~2011年  寄付型で3基設置 
  ・寄付型とは:公募し条件に合うところと協働でつくる
   <おてんとさん資金例> 1号機の場合(2004年2月完成)
補助金50%NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開 発機構、現在は補助金制度はない)+市民の寄付金50%(2311名)
 *グリーン電力証書制度への参画
  ・再生可能エネルギーによって得られた電力の環境付加価値を取引可能な証書にして売買する仕組み。購入のメリットは発電設備を持たなくても、証書に記載された電力量(kWh)相当分の自然エネルギーの普及に貢献し、グリーン電力を利用したとみなされる。
<おてんとさん活用例> 1号機の発電量全量を奈良県グリーン電力 として販売。
 2008年〜1年分  20,788kWh  (7.5円/kWh) 3号機に充当
  ・グリーン電力認証センターの役割
「特定の基準を充たした発電設備」によって取引されるグリーン電力価 値が、「実際に発電」されていることを、「公平な立場の機関」として「認証」する。
 *固定価格買い取り制度(FIT制度)活用による設置
  ・2009年11月の買い取り制度開始。(電力会社ごとに買い取り単価異なる)
  ・2012年7月に、太陽光発電以外の再生可能エネルギーに拡大、余剰電力買取から全量買い取り制度に変更。



(3) 一般社団法人地域未来エネルギー奈良
   設立:2013年12月
   目的;地域の再生可能エネルギー導入やまちづくりに関する事業を行い、安心で安全なエネルギーの地域自給を通じた地域活性化に寄与すること。
   関係団体:気候ネットワーク、市民エネルギー京都、奈良ストップ温暖化の会、奈良NPOセンター、小水力利用推進協議会(吉野町東吉野村)、奈良中央信用金庫、サークルおてんとさん
   具体例:恋の窪未来発電所@ならコープ
信託会社による融資(1800万円、15年返済)
市民出資(1口10万円 年利1.25% 上限5口)51名
   出資募集にあたっての留意点
    生協が主体となって「出資募集は行えない」 
〜可能な手段は 組合債
    出資法金融商品取引法の規制あり
     〜「人からお金を集めて何らかの事業を行い、その収益を配分する行為」を勝手に行えない。
     〜「第2種金融商品取引業者」「投資信託会社」に募集代行を依頼する。
  *反省点と今後の展望
    「生協が関わればすぐに集まる」はずだった・・
     →信託会社が関西では無名。「地域未来エネルギー奈良」も無名。
      開始当時、市民からほとんど反応なし。マスコミと県内金融機関はある程度反応。
    広報のしばり
     出資募集を行えるのは「信託会社」で、「出資募集説明会開催のお知らせ」のみ。
    出資募集の説明会の対応
     技術的・専門的な質問多数
    広報手段
     チラシの効果はほとんどない
facebookツイッターでの拡散が有効。生協の信頼性は大きい 全国の生協に呼びかけ
〜地域貢献(CSR)として注目される。
    他の例:福岡市とエフコープ(生協)が連携して「市民共発電所計画」
公共施設の屋根貸し事業(奈良市,UR 募集したが応募なし)
  *地域未来エネルギー奈良が取り組んだこと
   平成26年度地球環境基金助成事業
    低炭素の地域づくり交流会議 年2回
    自然エネルギー学校なら開講
    自治体向けアンケート調査
    小水力利用事業などへの地域支援



(4) 今後の課題及び展望
  *資金調達の枠組みの工夫が必要
    電力会社との接続問題、FIT買取価格の低下、市民ファンドのハードルの高さ
  *他のエネルギー導入支援
    吉野小水力利用推進協議会、東吉野村つくばね発電所
  *ソーラーシェアリングの可能性
  *他県の取り組み
    岡山県真庭市:木質バイオマスエネルギー利活用指針策定
    滋賀県湖南市:地域自然エネルギ基本条例(2012年9月議会)
    愛知県新庄市省エネルギー及び再生可能エネルギー推進条例
                       (2012年12月議会)
    長野県飯田市再生可能エネルギー導入による持続可能な地域づくりに関する条例      (2013年3月議会)
    高知県土佐清水市再生可能エネルギー基本条例
                       (2013年3月議会)
    北海道下川町:地域熱供給システム(地域暖房)導入



2.ディスカッション・質疑応答


<清水氏の補足意見>

・太陽エネルギーというと太陽光発電に目が行きがちだが、お湯を沸かすのなら直接太陽熱を利用する方が熱効率がいい。太陽熱温水器は安価だし維持費もかからないのでおすすめ。
自然エネルギー普及の活動を始めたのは、原子力発電反対といっても代替案がなければ説得力がないから。
太陽光発電による電力の買取価格が引き下げられていく中で、家庭用の太陽光発電設備をつける意味は売電より自家消費にあると考えた方がよい。
・国や電力会社は太陽光発電のこれ以上の推進を考えていないように思える。小水力発電バイオマス発電の方が安定的に発電できる。その意味では奈良県にはエネルギー自給の基盤が揃っている。


<参加者の意見>
・自然災害時の仮設住宅用にあらかじめ木材を備蓄すれば、間伐材の活用が進む。
間伐材の利活用:再生可能エネルギーとしての木質バイオマスの課題は、木の乾燥をどうするかが大きい。