8月報告「森林、林材業の未来を切り開く」

2015年8月28日(金)に8月の例会を開催しました。


「森林、林材業の未来を切り開く」
講師 大西孝典氏(前衆議院議員)





奈良県の現状】

  • 林業には長期間にわたる資金投入が必要で、吉野地域では不在地主(都市部に住む資本家)が地元林業家に管理を委託する「山守制度」で維持されてきた。
  • 吉野林業は、他地域の2倍近い苗木を密植する集約的林業で高品質の木材を生産してきた。
  • 木材価格の下落で、生産量はピーク時の約18%で全国平均約75%も大きく下回っている。
  • 林業の就業日数は、天候に左右されるため年間で約200日余り・労災のリスクも最も高い業種の一つである。このこともあって林業労働者の確保はますます難しくなっており、奈良県では1000人を切っている。
  • 吉野林業は、付加価値の高い木材を生産していた為、ヘリ輸送に頼り、林道設置などの社会資本整備を怠ってきた。
  • 国産材は、規格や乾燥などの品質が不安定で、供給量も安定せず、住宅メーカは安くても使いたがらない。
  • 奈良県の生産林業所得は現在20億円ほどで、西吉野の柿の売り上げにも満たない。経済的には地場産業とも言えないところまで来ている。1haあたり300万円かけて整備してきた山が、30年たって30〜50万円でしか売れなくなっている。投下した資本の10分の1でしか評価されず、せっかく利用間伐期を迎えた山のストックもゼロどころかマイナスでしかない。

【政治・行政の取り組み】

  • 枝打ちを除く、地こしらえ、植林、間伐などほとんど全ての作業に補助金がでる。(ユーザのニーズをあまり考慮していないのが問題)
  • 林野庁は全国に大規模製材所を建設し、コストカットを図った(前自民党政権時)。が、木材価格の下落を招き、必ずしも成果を上げていない、
  • 民主党政権時に、公共建築物木造化推進法を成立させた。(現自民党にも受け継がれている。地方は努力目標)
  • 補助金支給の条件として、切り捨て間伐だけを行うのではなく、林道作業道建設などとセットで利用間伐を促進しようとしたが、林業家から不評で上手くいかなかった。

【これから】

  • 木材の価格を適正なレベルまで上げていくことが何より重要であり、そのためには外材と競争するのでなく、国産材の新たな需要の開拓(かつては床材などに柔らかい杉板は使わなかったが、最近は需要が増加など)が必要。
  • 建築基準法を見直して、和風建築の建て替えがしやすくなるようにすることも大切。
  • 森林の公益性を考え、企業の森など都市部の大資本が投資する動きもある。(トヨタなど)


【意見交換】

  • 空き家のリノベーションを進めることも木材の需要喚起策の1つ。

→大西氏 リフォームは地元の工務店に頼むことが多いので地場の木材を使いやすい。省エネやバリアフリーなどに対応するリフォームに対しては民主党政権時代に補助制度を作った。

  • 再生エネルギーとしての活用→小水力、大水力、バイオマス(小〜中規模、大淀町など)

→大西氏 水力は24時間発電できるし、吉野地方では小水力発電に利用できる谷が至るところにある。木質バイオマス発電も有望だが、施設を身の丈に合った規模にすることが大切。

  • 材木の輸出(中国は増えている)
  • 補助金頼みの林業を孫や子の時代までは薦められない。
  • 木材生産だけでなく、治山治水の効用、吉野川分水や水力発電の水源確保能力なども加味する。

→大西氏 山が荒れて人が済まなくなると都市部に送る水の質も確保できなくなる。

  • CLTなど、国産材集成材の利用の促進。