2016年5月例会報告
2016年5月27日(金) 午後6時30分〜8時30分
講師 久住林業 久住一友さん
1.講演の概要
(1)プロフィール
・高校卒業後、林業を志して兵庫県で育林の仕事につく。
・その後、高知県の大川村森林組合で架線集材の技術を学び、2012年に谷林業(株)に入社。
・今年独立し、久住林業を設立。
(2)集材の方法
・架線集材…山の斜面にワイヤーロープを張り、搬出木に巻いたワイヤーをフックで吊り上げて運び出す。ある程度の量を出さないと採算がとれないが、1立方メートルあたりの出材コストはヘリコプターの半分以下で済む。
・ヘリコプター集材…ワイヤーロープを張る手間が不要で、少量でも出材できる。吉野林業では9割がこの方法。
・路網集材…道をつけないといけないが、それさえできれば出材コストは最も安い。
(3)吉野林業の課題
・ヘリコプター集材がほとんどのため、出材コストが高くついている(ヘリの方が楽なので、それに慣れてしまい架線集材に戻りたくないという思いがあるのではないか)。
・出材しても安くしか売れない(市場に出すと競り上がるのではなく競り下がる)→さらに出材量が少なくなる
・製材所でも製材した製品が売れない→素材を買ってくれなくなる
・吉野林業は密植・多間伐・長伐期が特徴と言われている。→安土桃山時代にたくさん木を使って大きな建物を造ることがブームとなり、太い木の価値が上がった。それに対して千利休は、細い木を使う繊細な建物がカッコイイという文化をつくり、それと同時に吉野林業が「細い木が求められているなら細い木を育てよう」ということで始まった。
→今考えられている吉野林業の特徴は、当時の社会ニーズに合わせて創り出されたもの。しかし現在は、市場の求めるものを吉野林業がつくっているのか。
・集成材や鉄筋コンクリートを使うのが今の住まいの主流。吉野林業は節がなくて真っすぐで年輪が締まった木をつくっているが、それは現在のニーズに合っていない。どれだけ手をかけても、ニーズに合わなければ売れない。
(4)スイスの林業
・奈良県がスイスのフォレスターを招聘し、日本とスイスの林業について意見交換するセミナーを開催したので、参加した。→フォレスターはスイスでは憧れの職業であり、単に木を育てるだけでなく山主から消費者までをつなげる役割を果たしていることを知った。→スイスの林業のことをもっと深く知りたくなり、昨年10月にスイスへ行った。
・スイスでもひと昔前までは植林わして一斉林を育てていたが、生態系や災害の問題から現在は恒続林というその土地に本来根づいている多様な樹種で構成される林へ移行しつつあり、植林はほとんど行われていない。
・フォレスターは各州に1人任命されている。山主と話し合って林家に仕事を割り振ったり、山に関するすべてのプランを考えるのが仕事。
・30トントレーラーが細い砂利道を入っていき、小口チェーンソーで切り出す。1立方メートルあたり6000円くらいだが、それで成り立っている。
・自然に生えた幼木が大きく育って売れるように誘導していくのがスイスの林業。
・スイスでも日本のナラ枯れのような「タモ枯れ」があるが、多種多様な樹種が植えられているので山自体が崩壊することはない。
・光が入りすぎるとすぐブラックベリーが繁茂するので、光を入れすぎないように育てている。
・フォレスターのロルフさんがいちばん時間を費やしていたのが、山主さんや地域住民と話す時間。人と人をつなぐ力がフォレスターには最も必要。日本では林業者が山主とも地域住民とも消費者とも話をしていない。川上から川下までをつないでいく人が今の林業には不可欠。
(5)久住林業の取り組み
・2014年と2015年の2回、谷林業の主催で、王寺町において「チャイムの鳴る森」というイベントを開催。森の中にカフェや雑貨店が出店し、その横で林業体験を楽しんでもらう。1年目は2日間で約5000人、2年目は約4000人が来場。この人たちを森に結び付ける活動をしたい、そのためには吉野林業のしがらみからいったん離れたいと考え、独立した。
・雑木林の広葉樹、これまでは薪にしかならなかった木を製材し、木工作家などに使ってもらっている。節も味わいになる。コナラをサーモ乾燥させたものは雑貨屋さんが「おしゃれな台になる」と使っている。
・素材を生産しないと林業は成り立たないというのが従来の考えだが、たとえば森の中にワイヤーを張って人がそれに乗って遊ぶとか、そんな山の経営もあっていい。
・障害者と一緒にシイタケの植菌など山仕事をしている。
・イベントを月1回開催。参加者が「チャイムの鳴る森」のときに拾ったドングリを育て、イベントのときに持ってきてもらい山に植林するという取組みを行っている。
・森とつながりたい人はたくさんいるが、そのきっかけがかめないという人が多い。そんな人たちの力になりたい。
(6)まとめ
・高度経済成長期に専業の林家が生まれた。現在は専業にするほどの需要はないが兼業での林業は必要。
・低成長、少子化に対応した持続可能な社会の中に森を組み入れられたらうれしい。
2.質疑応答
・奈良県がスイスのフォレスターを招く取り組みは今後も続けられるのか
→続けて行く意向と聞いている。奈良県としても恒続林を一部で取り入れながら吉野林業を復活させたい考え。
・外材の輸入量はどうなっているか
→近年は国産材の割合が少し増えているが、それでも輸入材が7割。現在は材木ではなく製品として輸入されることが増えている。東南アジアでは木の伐採に対する規制が強まっている。日本は現在太い木が少ないので、どうしても輸入に頼らざるを得ない。
・吉野地方は山が急峻なため林道をつけるのが難しいと聞いているが
→戦後の拡大造林のときも現在も、国が言ったからやる、補助金が出るからやるという体質がある。今は道をつけるのに補助金が出るので、どこでもいいから道をつくり、10年後には崩れて使えなくなつている、ということになる。
・林業は産業として成り立つのか
→林業だけにとらわれず、まず地域が発展する方法を考える、その方法の中に林業もあると捉えたほうがいい。いろんなものが育つ森にしていけば、林業が成り立つ余地はあるのではないか。
・王寺町のイベントでは、カフェや雑貨に興味があって来た人が林業にも興味を持つようになっているのか
→イベントに参加した人がまた森に帰ってきてくれるような仕掛けを考えている。ドングリを育てて持ってきてもらうのもその1つ。
・活動のフィールドはどのようにして確保しているのか
→谷林業の山で活動させてもらっている。作業中に近隣の人と会ったらできるだけ話をしてつながりをつくるようにしている。
・フォレスターの身分や資格は
→州のフォレスターもいるし、より広域のフォレスターもいる。身分は公務員。ただ身分保障はなく、この人に任せておけないということになったら辞めさせられる。フォレスターになるためには、7年間専門の学校で学び、職場体験もして試験に合格しないといけない。大変な「狭き門」。日本でも一応フォレスター制度がつくられたが、機能していない。
・スイスなどと日本の林業の違いは
→ドイツやスイスでは人々の身近に林業があり、木を切るのも娯楽の1つ。家族連れで森に来てキャンプファイヤーをしたりというのもポピュラー。森を守るために税金を払っているのだから、楽しむ権利があるという考え方。日本の山は急峻と言われるが、スイスも同じように急峻なのにも関わらず林業が成り立っている。
・木を求める人とつくる人のマッチングはどのように行われているのか
→フォレスター同士の会合が頻繁に行われており、そこで互いの持っている情報を持ち寄る。また、フォレスター自身が定期市を開いて消費者とつながっているケースもある。
・将来のニーズを読むのは難しいと思うが
→ロルフさんにそのことを聞いたら、「何十年も先のニーズはわからない。だからこそいろんな種類の木を植えているんだ」と言われた。
・トウヒの一斉林をどうやって恒続林に変えていったのか
→一斉林の中に小さなギャップをつくる(小面積皆伐)→そこに光が入ると、眠っていた木の種子が芽を出し、そこから徐々に広がっていく。
・林業の再生には教育も必要だと思うが
→森林の価値を子どもたちにもっと知ってもらうことが大切。また、木や森に対する市民(大人たち)の先入観をなくす取り組みも必要。