8月23日(水)、政策研究ネットワーク「なら・未来」主催の「なら・未来」サロンが、奈良市ボランティアインフォメーションセンターで開催されました。この日は天理高校教諭の川波太さんに、環境市民ネットワーク・天理による環境マニフェストの取り組みについてお話しいただきました。
その主な内容は次のとおりです。



1.講演要旨
(1)これまでの経緯
 ・2005年の天理市長選で、環境市民ネットワーク・天理(以下「市民ネット」)が、政策テーマを環境に絞って「環境マニフェスト・天理」を作成し、各候補者に提示。
 ・以後市長選のたびに、環境分野での市長マニフェスト評価を実施するとともに、環境マニフェストの提案を行っている。
 ・主な政策提案のうち、環境連絡協議会は発足、廃棄物発電は新しい焼却施設の計画で導入、街路樹再生については天理市管理道路については改善、「ホタル舞うまち」についてはホタルの数が年々増加、太陽光発電については福住工業団地にメガソーラー建設。
(2)天理市環境連絡協議会
 ・平成27年5月発足。個人会員48、団体会員33。市民ネットも会員として参画。
・事務局は市環境政策課が担い、市の関連部署の部長級が個人会員で入っているが、市からの財政的支援はない(財源は会費)。
(3)マニフェスト評価
 ・政策分野…?環境政策全般(総合評価) ?総合的な戦略 ?ゴミ問題 ?都市緑化 ?河川環境 ?森林保全 ?食料生産 ?温暖化防止 ?その他
 ・評価項目
   <選挙時のマニフェスト>?企画力(具体性・魅力) ?市民参画度 ?体系性
<進捗状況(任期終了時)>?目標達成度 ?リーダーシップ度 ?組織内連携度(市役所内) ?市民参画度 ?情報公開度
 ・マニフェスト評価の実績 南市長(2005〜2009) 立案2.0、総合評価3.0
              南市長(2009〜2013) 立案2.6、総合評価3.4
              並河市長(2013〜2017) 評価中
(4)現状の問題点
 ?ごみ処理…化石燃料を助燃材剤として使用するなど、大量の二酸化炭素を排出している。現クリーンセンターの老朽化(修理しながら使い続けることもできるが維持費がかさむし、新しい焼却施設の方が発電効率もエネルギー効率もいい)
 ?ナラ枯れなど…ナラ枯れは直接的にはキクイムシが菌を媒介して起こるが、根本原因はコナラなどを伐って利用することがなくなり、森のメタボ化が進んだこと。ナラ枯れ日本海側から太平洋側に向かって広がりつつあり、今では飛鳥などもかなりひどい状況になっている。これによって里山が劣化し、場合によっては二酸化炭素の発生源となっている。
 ?耕作放棄地…獣害の原因。ごみの不法投棄の温床。残土処理場となつているところも→最終処分場に比べて基準が甘く、どんな有害物質が捨てられているかわからない。景観を破壊する。
(5)エコ・シティ天理構想
 ・新クリーンセンター建設を契機に、一次産業(農林業)、二次産業(加工)、三次産業(販売、観光)、四次産業(環境ビジネス)を結合させた十次産業の確立を目指す。たとえば、ごみ発電の電力や熱エネルギーを農林業や農産物加工などに活用。里山間伐材をクリーンセンターの助燃剤として使用したりCLTの材料として利用する、など。
・そしてさらに、宗教、教育なども取り込んで「百次産業化(集積産業化)」へ。
(6)再生可能エネルギーについて
 ・世界のエネルギー消費量を1として自然エネルギーのポテンシャルを数値化すると、水力1倍、地熱5倍、バイオマス20倍、風力200倍、太陽光2850倍
 ・水力発電は総最大出力約5000万キロワット(日本の平均電力使用量は約1億キロワットで、半分は揚水発電)。水力発電をうまく使えば、不安定と言われる太陽光や風力などの再生可能エネルギーを調整できる。

2.質疑応答
揚水発電について
原子力発電の熱量は3割しか使われていない(7割は海に放流している、その影響も大きいが)。それを維持するために揚水しているということではロスがあり、その経費は誰か(結局は消費者)が負担しているのではないか。
  →揚水発電は夜間電力で水をくみ上げ、電力需要の多い昼間に落水して発電するもので、夜間に電力が余る原子力発電のために作られた。こうした経緯はともかく不安定な再生エネルギーを安定かする巨大なバッテリーとしての価値がある。(揚水発電だけで最大出力が原発約27基分)
揚水発電が電気料金を上げている(発電単価を比べるときに、原子力の1kWhあたりの発電コストより水力の1kWhコストのほうが高いのは、揚水発電水力発電として計算しているから)。原子力のために作った揚水発電所なのに水力発電のコストに入れるのはおかしい。
→夜間の余剰電力を揚水発電で蓄え、日中のピークカットで燃料費を大幅に節約しているので、揚水発電二酸化炭素削減と電気料金抑制に貢献している。→不安定な再生エネルギーを利用するために、皮肉なことだが原子力政策で造った揚水発電などのダムが武器になる。
・エコ・シティ構想の中で農薬の問題はどう位置付けているのか
  →上流部に位置する農地では、農薬はほとんど使っていない。除草剤のみ使用しているが、植物ホルモンの濃度が高いものであり野菜そのものにも含まれている物質なので、人体への影響はない。ただし、雑草が枯れれば生物多様性が失われるので、100%良いとは言えない。また、肥料を施すことで窒素・リン酸過多になり、それが流出して水質の悪化を招くということはある。
・街路樹の弱剪定で近隣住民からの苦情はないか。
  →ないことはないが、ボランティアによる落ち葉掃きなども行われている。
・評価基準のうち、組織内連携についてはどうやって評価の材料を集めるのか
  →市の担当課などにヒアリングして情報をもらっている。
バイオマス発電の未来について
  →最近は技術の発達により小規模でも発電効率が高くなっているので、今後小規模のバイオマス発電施設が普及していくのではないか