レポート「奈良市土地開発公社解散による財政への影響」-後編


奈良市土地開発公社解散による財政への影響 ー後編ー  加門進二郎



2. 今後の財政指標への影響



このような三セク債*1の発行は市の財政にどのような影響を与えるだろうか。奈良市・財政課から奈良市議会・総務水道委員会に提出された資料によると、元利償還金は年間10~12億円だと計画されている。(20年をかけて毎年償還する。この元利償還金の約90%は赤字補てん部分となる。)



もし年間10億円の資金があるとすれば、どのような住民サービスが可能だろうか。平成22年度の小学校費の実績は19億円、中学校費は9億円だ。(※普通建設事業除く)
仮に、この三セク債の元利償還金と同額の10億円があれば、子どもたちの教育充実のための費用は、小学校費の場合だと5割増し、中学校費では倍増が可能になる。市民としては、ため息が止まらないほどの大きな金額だ。
 


 三セク債の発行によって、今後、財政指標にどのような影響が出るだろうか。将来負担比率は元々連結ベースで計算しているため、今回の三セク債発行は折り込み済だ。しかし、経常収支比率、および、実質公債費比率は間違いなく悪化することが予測される。



3 奈良市土地開発公社による土地取得の問題点


 奈良市土地開発公社経営検討委員会の「最終報告書」では奈良市土地開発公社の問題点を、次の通り提起している。 

  1. 必要性が極めて低い土地を、「買収ありき」で取得
  2. 明らかに高額な土地買取価格と膨張し続けた借入金
  3. 問題の先送りによる将来世代への負担転移

 今少し、個人的な意見を含めて問題点を解説したい。

  • 今回以前にも土地開発公社から奈良市が高値で買い入れた未利用土地があり、今回の土地がすべてでない。他にもある。
  • 今回の対象地を取得したのは、一つの物件の一部分を除き、バブル崩壊後の平成5年〜15年ごろまでであった。ところが、この時期は地価の大幅な下落局面にあり、そもそも先行取得をする必要性は全くない。
  • 公社が買い入れする価格については、公拡法7条で「地価公示法第6条の規定による公示価格を基準として算定した価格としなければならない」と定められている。


 公示価格の近隣であれば該当地の時価は素人でも判断しやすい。ところが山林などの場合には公示価格による判断ができず、鑑定士の恣意的な判断が入りやすい。奈良市に限らず、他の自治体でも専門家である不動産鑑定士の鑑定価格での買入れだから、という理由で価格を正当化する事例が見受けられるが、取得した山林では特に問題が大きくなっている。


 筆者は平成25年1月20日に行われた「奈良市の塩漬け公有地ツアー」の案内人を勤めたが、その時の参加者である不動産関係者によれば、民間(大阪)の土地区画整理事業での価格決定は、異なる鑑定士3名で行なうそうだ。(これは関係当事者が納得する価格を形成するためだ。)ところが自治体では経費節減を隠れ蓑にして、たった一人の鑑定士の鑑定価格で買い取りをしている。今後も公有地を取得する機会が予期されるが奈良市には対策を講じてもらいたいものである。 

  • 奈良市の場合にも公社が取得した先行土地を市が5年以内に買い取る規定があったと聞いている。何故このように放置されたのか?この点について、市議会での審議は、過去に全くなかったのだろうか。この買い取り規定を順守した自治体もあるが、その場合は、大きな損失を出していない。


● おわりに


 奈良市の積年の問題「負の遺産土地開発公社の問題は、多くの自治体同様、三セク債の活用で一応の解決策を見出したことは理解できる。(市民負担の平準化、金利負担の軽減等)しかし下記記載のように問題点は多種存在する。


平成24年に筆者と奈良市の財政を楽しく学ぶ会のメンバーで作った「市民が作った奈良市財政白書」では、財政指標のほかに「資産と負債のバランス」にも注目をして分析をした。奈良市は負債が中核市平均よりも多い。その分、資産形成をしたのであれば良いが、残念ながら資産は中核市平均よりも少ない。負債の大きさの割には資産ができていない、と言うのが現状である。


 今回の三セク債の発は、新たな資産形成を伴わずに償還期間20年の借入をし、負債だけが増えるというものだ。また近年では、市職員の退職金支払いのために毎年20億円を上回る退職手当債 *2も発行している。これも5年据置20年償還である。さらに平成19年度には、市が抱えていた民間からの借入金(200億円)の返済期間を、20年から30年へと変更している。まさに先延ばしの一言に尽きる。これでは目先の財務指標がどうあれ、何も知らない後世代への負担転嫁である。


 今後は、老朽化した火葬場とクリーンセンターの建て替えも予定されている。従って、将来負担比率も改善の見込みは薄い。市民としては、奈良市の財政状況は破綻寸前ではないかと危惧をするが、これは早計であろうか。


 最後に、本件に関し、奈良市議会が一部の議員を除き、問題点の究明、再発防止、市民への説明責任に消極的であった。常日頃、市民の代弁者を標榜する大半の議員が本件に関し、全く質問もせず、また100条委員会の設置等活動しなかったのは、とうてい理解できないとつけ加えておく。



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*1: 三セク債に係る特別交付税措置は、10年以内に事業化する土地に係る利息の50%が措置される。ただし、奈良市の場合、現時点はでは事業化できる土地がいくらかは未定である。

*2:退職手当債 平成18年度14億円はじめ、毎年20億円を上回る金額を発行している。 償還は5年据置で、20年償還