レポート「奈良市土地開発公社解散による財政への影響」-前編


奈良市土地開発公社解散による財政への影響 ー前編ー  加門進二郎



● はじめに 


 奈良市奈良市土地開発公社*1 を解散し、第三セクター等改革推進債 *2(以下、三セク債)を発行することが市の広報「奈良しみんだより」*3 (H24年8月号〜10月号)に掲載された。これは市民に対し、将来にわたって大きな負担を押しつけるものだ。この債券発行(借金)の問題を考える前に、現在の奈良市の財政状況を確認しておこう。


 平成23年度の財政指標と全国の中核市(全41市)と比較した順位は次の通りだ。


財政力指数 0.76 24位
経常収支比率 98.9% 41位 (★最下位)
実質公債費比率 14・0% 40位
将来負担比率 204.0% 41市 (★最下位)


 「奈良しみんだより」では、毎年11月号に奈良市の財政状況が報告されている。*4 平成19年度以降は常に「厳しい財政状況」との表現で記載されている。たしかに多くの自治体が、現在厳しい財政状況を抱えていることは問題となっている。*5 しかしながら上記の財政指標からは、奈良市の場合は“厳しい”という表現ですまされるレベルではなく、 “危機的状況”と見るのが適切ではないか? 本稿では今回の三セク債の発行が、今後、奈良市の財政面にどのような影響を与えるのかを考えてみたい。



 1.土地開発公社の設立経緯と赤字補てん額



 土地開発公社は高度成長期の右肩上がりの地価上昇に対し、公有地の迅速な取得を目的とした「公有地の拡大に推進に関する法律」に基づいて設立されたものだ。公社が土地を取得する場合には、議会の議決を経ずに済む仕組みだ。また、奈良市の場合、情報公開も義務づけされておらず努力規定であった。これについて土地開発公社について詳しいジャーナリストの山本節子氏はこう説明している。
 


「行政組織をひきずっていますと、議会や市民の目が気になって、自由な運用ができないということで誕生したということです。逆にいえば議員、市民の目に触れないところで、土地取得が行われたということでしよう。」

(『土地開発公社―塩漬け用地と自治体の不良資産』,山本節子著,築地書館


 奈良市は公社の取得した土地のうち12.46億円分を平成24年度に買い戻す。そして、残り174.06億円分は、奈良市が三セク債として175億円を、借金をして引換えに公社の土地を引き取った。ところが、この175億円分の不動産の時価はわずか12.9億円しかない。

 
 第三セクター債とは分かりづらい名称だが、実態は二つに分かれる。一つは12.9億円の土地取得分、残りの162億円余りは赤字補てん部分だ。いわば資産の裏付けのない借金が市民にかかることを意味している。言い換えれば、奈良市が公社のために莫大な損失補てんをするということだ。

 
 奈良市はその補てん分を20年間かけて返済する予定だが、奈良市民は全く知らない土地取得の損失補てん部分を支払い続けることについて、理解することが肝要だ。

 
 近隣自治体の土地開発公社解散プランにおける「赤字補てん額」の比率は次の通り。

奈良市...92.6%  
姫路市...55~66%
大和郡山市...49% 
平群町...84.6% 
上牧町...91.3% 


 また「償還期間」は、姫路市大和郡山市が10年なのに対し、奈良市平群町は20年だ。奈良市平群町は負担が極めて長期間になっていると言えよう。



.<<後編に続きます>> 



土地開発公社―塩漬け用地と自治体の不良資産

土地開発公社―塩漬け用地と自治体の不良資産

*1:【参考URL】 土地開発公社の改革/奈良市HP 特に経営検討委員会による「最終報告書」に注目すべき指摘が見られる。ページ左よりダウンロードができる。

*2:【参考URL】第三セクター等/総務省HP

*3:【参考URL】しみんだより−インターネット版−/奈良市HP 下方よりバックナンバーも見ることができる。

*4:【参考URL】奈良しみんだより平成24年11月号 特集「奈良市の財政状況」

*5:上記しみんだよりに「市財政の柱となる一般会計は、歳入の中心である市税が長引く景気低迷の影響により減収となり、一方歳出では社会保障関連経費が前年度に引き続き増加するなど極めて厳しい状況となりました。」と記載されている。