2月例会報告「奈良市の発展戦略をデータから考える」

nara_mirai2014-03-02



2月28日(金)の例会は、梅屋則夫さん(奈良NPOセンターシニアフェロー、中小企業診断士)を講師に迎えて、「奈良市の発展戦略をデータから考える」のテーマでお話しいただきました。




当日に梅屋さんにご用意いただいたレジュメは、こちらからダウンロードしていただけます。


奈良市の発展戦略をデータから考える(梅屋さんレジュメ).pdf 直


講演とディスカッションの概要は次のとおりです。ぜひ、レジュメと併せてご覧下さい。




1.発表の概要


(1)各種データから見る奈良県奈良市の現況

  • 近年の奈良市は県内の市部平均よりも人口減少率が高い。
  • 平均年齢は県平均よりも高く、年少人口割合は県平均よりも低い。県庁所在地としては非常に珍しい。
  • 2005年から2010年にかけて、夜間人口は1%減り、昼間人口は1%増え、昼間の流入人口は3%減り、流出人口は10%減っている。これは、高齢化が進んで市外へ通勤通学する人が少なくなったことを意味している。「成熟停滞型都市」への移行が着実に進んでいる。
  • 奈良県は、人口千人あたりの出生数は全国で38位、合計特殊出生率は42位。
  • 主要駅の乗降客数の推移を見ると、近鉄奈良線機は30年間で乗降客が35%現象するなど能低下が目立つ。県内で最も早く開発された地域であるため、その分高齢化が早く進行していることが背景にある。一方、JR奈良駅の乗降客数は30年間で30%増えている。
  • 奈良県は都市に近接している県としては際立って人口流出が激しい。
  • ブランド総合研究所が実施する魅力度ランキング*1で、奈良県は5〜6と安定して上位だが、奈良市は年々順位が低下している。
  • 奈良県の宿泊客数は47都道府県中46番目。また、宿泊客の95%以上が観光目的であり、ビジネス客の割合が非常に少ない(全国平均は観光客とビジネス客がほぼ半々)。
  • 奈良県の宿泊客数は遷都1300年祭の年に大きく増加したが、翌年は激減。外国人宿泊客は増えつつある。
  • 中核市の財政状況を比べると、奈良市は経常収支比率と将来負担比率がワースト1位、実質公債費比率がワースト2位、人件費比率がワースト4位。

(2)データから見えてくること

  • 高齢化率よりも高齢者数が問題…保険財政の悪化、介護施設の不足への対応が必要。
  • 低い出生率の改善が急務…若い女性が働くと子どもが減るのではない。子育てに親世代や社会の支援が手厚く、子育て中の収入を確保しやすい地域ほど出生率が高い。→女性の就業率を上げることが課題。
  • 鉄道や高速道路など交通が便利になった地域ほど人口が外部に流出する。
  • 生産年齢人口は今後50年で半減する。→すべてが供給過剰になる。新市場の開拓が不可欠。
  • 人口オーナス現象…人口に占める生産年齢人口の割合が少なくなると、生産年齢人口はますます都市部へ流出していく。

(3)奈良市のまちづくりをどのように考えていくか

  • ビジター都市(交流都市)「奈良」の創造…観光だけでは地域経済は活性化しない。奈良の資源を活用し、歴史文化の発信拠点として学生・研究者・デザイナー・建築家・公務員などを呼び込む
  • 文化庁など首都機能の誘致…東京オリンピックで東京一極集中が極まり、その反動が必ず起こる
  • 中心市街地の活性化…慰楽機能を充実させる。三条通は今のままでは宝の持ち腐れ
  • 高齢化を見越したエリアマネジメント…コンパクトシティを目指す。空き家の活用、歩いて暮らせるまちづくり、カーシェアリングなど
  • 奈良市財政再建…今後のまちづくりへの投資がほとんどできないほど硬直化している。新年度予算を見ても「言い訳予算」という印象。あちこちに少しずつ「やっていますよ」という言い訳のために予算をつけている。これを続けていると未来のための投資ができず、必ず衰退する。





2.意見交換

  • 貨幣ベースで考えるのでなく、生活文化の質をよくすることを考えるべき。経済的に豊かどうかより、実体的に住みやすいかどうかのほうが大切。奈良はお金の価値に換算できないほど人々を感動させる価値をたくさん持っている。
  • 働き盛りの人を呼び込むために、固定資産税の3年間免除など思い切った策を講じるべき。
  • 奈良市は産業と消費の集積が全くない。
  • 観光についても、長期的視野が欠けている。大安寺にしても、広大な土地が何も活用されていない。20年計画くらいで植栽していけば観光地になるのに。
  • 奈良の寺社はリピーターが少ない。
  • 学園前に公務員住宅があるが、8割くらいが空き家。民間に売って開発すれば働き盛りの人がたくさん入ってくれる。
  • 農業は意外にビジネスチャンスが大きい。奈良県の食糧自給率はワースト5位で、逆に言えばそれだけポテンシャルが高いということ。もともといつごやしいたけの生産量は全国トップクラスだった。都市に近接しているメリットを生かせる。
  • 奈良市の政策は観光都市の面だけが重視されており、生活安心都市としての戦略がない。
  • 20〜30代の女性の減少率を見ると、宇陀市はワースト5位。奈良市も減少率が高いと思われる。
  • 奈良市は就労人口はそれほど減っていなくても、その構成が大きく変わっている。金融・保険などが減り、介護など所得平均の低い業種が増えている。
  • 奈良市だけで活性化策を考えても無理。県が県都である奈良市にもっと投資すべき。
  • 奈良市は近隣都市に流出していく地理的条件にあるのだから、魅力さえあれば逆に流入の可能性も高い。
  • 市民公募債などの仕組みをつくり、市民がお金を出し合って自分たちのまちの未来を考えていくことが必要。
  • 奈良市の職員のレベルを上げることが不可欠。
  • 新たな宅地開発を規制すべき。駅から徒歩10分以内の便利な住宅地でもいまは空き家が目立っている。新しく開発しても、何十年か後にはゴーストタウンになるだけ。
  • 真っ直ぐな大根しか商品にならないとか、便利だからいいという価値観を転換すべき。貴重な歴史文化もその基盤となる環境が守られているからこそ価値がある。

 改めて具体的なデータを示されると、新たな発見がいろいろあります。特に、奈良市の平均年齢が県平均を上回っていること、奈良県の宿泊客でビジネス目的はわずか5%弱という事実などは衝撃的でした。こうした事実を踏まえて、意見交換も大変盛り上がりました。せっかくのこうした議論を無駄にせず、新年度から本格化する総合計画後期基本計画策定への市民提案などにもつなげていければと考えています。

*1:地域ブランド調査2013 上位100市区町村ランキング http://tiiki.jp/news/05_research/survey2013/1691.html