「議会改革と選挙」


2014.07.25 政策研究ネットワーク「なら・未来」例会記録
話題提供者:奥田寛氏



ご自身の経験から


新人候補として橿原市議会議員に立候補したのは、平成15年の補欠選挙。当時、中和7市町村(橿原市桜井市、川西町、三宅町田原本町、高取町、明日香村)合併問題が検討されており、合併反対が大勢を占める議会に対して危機感を覚え、合併賛成を唱えて出馬し、当選。しかし、この当選は合併賛成という主張(政策)に対して信任を得たものではなく、消去法的な選択による当選であったと奥田氏自身の分析である。即ち、補欠定数2人に対して立候補者は4人。内訳は、共産党、女性、右翼、そして奥田氏(無所属市民)。奥田氏には地盤・看板など特に良い材料は何もなかったが、共産党と右翼を好ましく思わない有権者からの支持の受け皿となって、女性と奥田氏が当選できた。


定数1に対して単記で投票する小選挙区制は、当選して欲しい人に○をつけても、当選して欲しくない人に×をつけても意味合いが同じになるという意味で、消去法的であり、批判票が反映されやすく、政権交替が起こりやすい選挙である。通常の市議選は、大選挙区単記非移譲式投票で、批判票の集約はなきに等しいが、定数が少ない市議補選の場合は、単記式であっても、小選挙区制に近い構造になっており、何ら実績のない無名の若者にも、チャンスがあったのだった。



議員の仕事のスタンスとは


市町村合併をすれば、7市町村で約130人いる議員を38人以下に減らすことになる。しかしながら、議員定数を守りたい議員たち自身が議決権を握っており、その賛成が得られなければ話は進まない。このことが、「住民投票制度」を考える一つのきっかけだった。結局、合併できなかったため、橿原市は単独で財政健全化の議論をしなくてはならなくなったが、橿原市議会は、市内各地域からの要望、福祉・教育に関する要望など、財政出動を求める議員が多く、市の財政健全化を求める議員は少なかった。橿原市は、類似団体比較で財政状況は最悪に近いのに、議員報酬×議員定数=議員経費は上から3番目に高いという状況だったため、住民による議員定数5減の条例改正の直接請求が行われた。これを議会が否決し、(後に定数2減が行われたが)、市町村合併の失敗とともに、改めて「住民投票制度」の必要性が浮き彫りになった。


小選挙区で選ばれる国会議員も、大選挙区単記非移譲式投票(旧中選挙区制と同じ)で当選する県議会議員も、市議会議員も、「地元」から選出されている意識が強く、次期選挙に再選されたければ「地元」への貢献が旨となる。即ち、国会議員は国全体の財政よりも選挙区の発展を語り、県会議員は県全体の財政よりも選挙区の発展を語りやすくなる。その傾向がもっとも顕著になるのが市議会議員で、市全体の借金をどうするかということよりも、道路拡幅や用水路の整備などの「地元」への貢献、自分の後援会や地元有力者などへの利益誘導型の議員活動が多くなっていく(積極票の奪い合い)。そうした、今の「議員像」を作っているのは、今の「選挙制度」なのだった。このようなやり方と対照的なのが、英下院で、「地元」との癒着を防ぎ、国家全体を見渡す視点を養うため、小選挙区制度ではあるが、党の指示によって立候補者は選挙区を変更され、「地盤」が継承しにくい仕組みになっている。



議員の得票について


世界では小選挙区制か比例代表制が多く、日本の市議会議員選挙で行われている大選挙区単記非移譲式投票は、日本でしか行われていない(加藤秀治郎「日本の選挙」)。この制度では、小選挙区制でも比例代表制でも起こり得ないことが起こることがある。定数を増やせば増やすほど議員1人あたりの信任率が下がってしまうということも、小選挙区制や比例代表制では起こり得ない事象である。さらに、定数が20の場合、単記式のため、1/20=5%の信任率があれば議員は当選できる。逆にいえば、95%の信任が無くても当選することになる。不祥事を起こした議員をクビするためには有権者の50%が不信任投票をすればよいのだが、日本では、リコールされた、或いは不祥事により自ら辞職した議員が、次回の選挙でいとも容易く再選されるという不思議なことがまかり通っている。


大選挙区単記非移譲式投票では、小選挙区制のように批判票が集約的に反映されることもなく、当選のために何十%もの信任も必要ないので、再選率が高い。また、不祥事を起こしたからといって、比例代表制のように、党によって公認を外され、当選が絶望的になるということも少ない。5%の「地盤」を持っていればいつでも当選できるというこの選挙制度自体が、「中和広域消防組合職員不正採用事件」のように、世間の道理に反してでも、自分の後援会に利益誘導するという議員を生み出す温床なのだった。


ちなみに、アメリカなどでは、政治家がリコールされて、その欠員を埋める選挙に出馬し、再選されるなどということは、基本的にないようである。リコールが成立するときに、すでに次にそのポストに座る政治家が決定しているためである。日本では、選挙制度とリコール権の関係についての議論が弱く、有権者が政治家を直接選び、また、直接クビにしているように見えて、実は、信任・不信任のコントロールがちゃんとできない不条理な仕組みを甘んじて受け入れてしまっているように思われる。



議員報酬について


議員報酬は概ね、大都市で100万円を超え、中核市は60万円、橿原市では50万円、町村では20万円、もっと小さい自治体では10万円というところもある。同じ地方議員という立場で、仕事の内容もさほど変わらないであろうと思われるのに、都市域以外では生計を立てることのできない額であるため、例えばサラリーマンが会社を辞めて議員になるという選択はあり得ない。事実、都市域以外の議員は建設業者や自営業者が多い。
かつて、戦前までの議員は名誉職的であり、生活に余裕のある名士などが私財をなげうって社会に貢献するということもよくあった。これが戦後の民主主義政策の中で議員に給料を支払い、誰もが議員になれる体制が作られた。しかし、上記のとおり、日本の人口の大多数を占めているはずのサラリーマンがいない議会となっているのが実態である。


大都市では多く、小規模自治体では少ない議員報酬は、実は選挙にどれくらい金がかかるかということに対応して金額が設定されているのかもしれない。少なくとも、各自治体が、「専業議員を作って少数精鋭で」とか「兼業議員で報酬は少なく」とかという議員像を真剣に考えて設定した金額ではないであろう。そして、そのことは、今後、住民自身が考えなくてはならない課題となってくる。英国では、すでに、議員をつくる制度を住民自身が考え、住民投票により「小選挙区制か、比例代表制か」といったことを住民が選べるようになっている。



まとめとして


選挙制度改革が必要。国替え(「地盤」を離れる)による小選挙区制が良いのではないか。
・あるいは複数記名による投票もあってしかるべきである。
・選挙には金がかかるという前提を取り払い、誰もが立候補できる制度に作り替える必要がある。
・サラリーマンが立候補のために会社を辞め、落選してもまた職場に復帰できる仕組みを一般化すべきである。
選挙制度改革についてマスメディアの関心が薄い。国民的議論を起こす必要がある。
地方分権、地域分権を進める中で、住民投票による制度の選択を行なうべきではないか。



意見交換


議員報酬について

・キャップ制というやり方がある。議員の報酬は例えば800万円までとして、兼業議員は議員以外の年収と800万円との差額を議員報酬とする、という方法。
・基本額を定めて、議員活動の成果によって報酬を増減するという方法をとっている事例もある。減額の実績は無いようだが。
・市議会議員報酬は、自治体の部長職給料を下回らないこととか、国会議員は国会職員の給料を下回らないこととか、の慣習があるようだ。
・議員1人当たりの報酬額×議員数=報酬総額、という計算式において、報酬減額や議員数削減という左項の議論に終始しがちであるが、右項の総額が自治体予算の中でどのような比率になっているか、借金の何割を占めているのかなど、他中核市との比較から考察すべきである。
・これを議会で議論しつつ、住民投票によって市民が決定できる仕組みが必要である。


健全な議会にするために

・議会改革は選挙制度改革から。
・サラリーマン層から立候補できるように。
・複数記名の選挙制度として信任率の明確化を図るべきである。
・選挙の時(4年に1回)だけ政策を論じ、マニフェストを掲げる議員ではなく、少なくとも定例議会(1年に4回)毎に市民に向かって発信できる誠実な議員こそが求められるべきである。これは当然のことですが、そうなっていないのも事実です。
・議員の質を高めること、また、質の高い人が議員になれることが選挙制度改革の目的。
・議員通信簿などの評価は補完的なものであるが継続してこそ活きてくる。多くの評価項目から集約した評価につなげることができればよい。
・議会基本条例などを制定し環境整備は行っても、議会の旧態構造・雰囲気は変わらない。議員は旧村出身者で、新興住宅地からは出ない。一般市民の政治に対する無関心こそが課題の根源ではないか。
・議員の任期制限、定年制の議論はあるが事例は無い。首長について事例は多い(制度化および自主的に)。
・議員の多選禁止については、オンブズマンや市民NPOによる議論の積み重ねが必要で、これをマスコミに取り上げるように仕向け、社会的な盛り上がりが求められる。


市民の政治参加について

・地方政治家になりたいという願望者は増えているのか、減っているのか?なりたいのか、なりたくないのか、なりたいけどなれない、立候補できない理由は何か?資金か、制度か。
NPOが増えていることから、地方政治に参加したい人は潜在的に増えていると考えられないか。
・利権を得ることが政治家になりたいと考えるきっかけなのか?
・地方政治への参加欲求を育てるため、マスコミは継続的(選挙時だけではなく)に発信する必要があり、学校でも政治教育を展開すべきである。
福井県鯖江市にはJK課があり、女子高生などの「ゆるい市民」を主役とする、まちづくりへの参加のきっかけづくりに取り組んでいる。


選挙制度改革にむけて

・選挙期間中の制限緩和を進めて、真に政策で選べる選挙制度にすべきである。
選挙制度は民主主義の根幹であるという事の再認識。
・現在の選挙方法は日本独自の(ガラパゴス的に発展してきた)ものであることを認識。
・選挙学者にとっては当たり前になってしまっていて、議論にならないことだが、大選挙区単記非移譲式投票は、候補者が多過ぎてドンキーボート(ロバのような間抜けな投票)が多いといったことを、一般市民の若者が勉強して最良の方法を考えることが重要。