11月例会「市民投票条例」議事録

「なら・未来」11月例会 議事録

日時:2014年11月22日(土)午後5時30分から
場所:奈良市ボランティアインフォメーションセンター 会議室1-1
テーマ:「市民投票条例 ―自ら選択し、自ら結果を引き受ける 市民自治のツール―」
参加者:15名


11月例会では、生駒市議会議員の塩見牧子さんを発表者として、6月議会で成立した「生駒市市民投票条例」について理解を深めるとともに、住民投票制度のあり方について考えました。




市民投票条例をめぐる生駒市の経緯


 生駒市においては、バブル経済期に作られた計画のもと進む「学研高山第2工区のニュータウン開発」について、採算性や環境に与える影響などをめぐって世論が沸き起こりました。2003年からは具体的に、この是非を問う住民投票条例の制定を求める直接請求運動が起こりました。

 1ヶ月間の活動で約15000名もの署名が集まり、これは直接請求に必要な数(選挙人名簿登録者数の50分の1 =当時では1819名)の8倍以上に相当します。それにも関わらず市議会は否決(賛成4・反対19)。住民がどれだけ大きな思いを持っていても、必ずしも市議会が取り上げてくれるとは限らない状況がありました。

 その後、住民の意思を問うことなく開発計画を進める中本幸一市長(当時)に対して、署名運動を担った「高山住民投票の会」代表世話人の山下真さんが市長選に立候補。現職を破って2006年から市長を務めています。山下市長のもと開発計画は中断されましたが、住民投票のあり方については、2期目マニフェストで「常設型の市民投票条例の制定」が掲げられたものの、様々な要因で遅々として進みませんでした。

 市長の諮問を受けた「市民自治推進会議」が具体的な条例案を検討したものの、市内ではそれ以前から(全く別の議決事項に対して)民族差別発言を繰り返す街頭演説=ヘイトスピーチ=が行われていたり、条例案に対するパブリックコメントでは「投票資格者に永住外国人を入れるべきでない」旨の意見が市外在住者から多数寄せられるなどしました。2011年には推進会議の一委員に直接危害が及ぶに至り、市長が抗議・謝罪要求をする事態にまで発展。いっぽうで、住民投票に法的拘束力を持たせようとする国の動きや、外国人登録法の廃止の動きなどを見守っていたこともあり、長い間、条例提案がストップしてしまっていました。

 2013年12月議会で塩見さんは、市民投票条例についての考えを市長に一般質問しました。「このまま店ざらしにしておくつもりはない」との答弁を得、その後3期目のマニフェストに明文化こそされなかったものの、3期目当選後の2014年6月議会に提案され、可決される(賛成15・反対8)に至ります。


生駒市市民投票条例」の特徴


 2014年6月に成立した「生駒市市民投票条例」は、投票に付すことができる事項として「現在又は将来の市民の福祉に重大な影響を与え、又は与える可能性のある事項であって、市民に直接その賛否の意思を問う必要があると認められるもの」と定めています。ただし、生駒市に属さないこと、市議会の解散、議員や市長の解職、投票により特定の個人や団体について権利を不当に侵害したり不当に利益を供与するおそれのあること、もっぱら特定の地域に関係すること、などは除かれています。
 この条例の大きな特徴は、主に以下の3点です。

  • (1)「個別型」でなく「常設型(実施必至型)」であること。
    • 住民投票を求める一定数以上の署名(投票資格者の6分の1以上)があった場合、議会は拒否できず、投票が必ず実施されるということ。
  • (2)外国人でも地方自治法が定める要件を満たせば投票資格があること。
    • 投票資格者は地方自治法が定める「住民」と同じ定義であり、ハードルは高いが外国人にもその資格が与えられるということ。
  • (3)最低投票率などの投票の成立要件は設けないが、賛否どちらか過半数の結果が、投票資格者総数の4分の1以上に達した時は、議会・市長・市民は結果を尊重すること。
    • 賛否どちらかのボイコット運動で無効になるような最低投票率の要件を除くとともに、相対得票率よりも絶対得票率を重視するということ。

 (1)については、「個別型」住民投票条例の場合、案件が起こるごとに条例・施行規則を定める方式のため時間を要するし、議会が否決する可能性もあるのに対して、「常設型(実施必至型)」住民投票条例の場合、案件ごとに新たに制定する必要がないので“迅速に対応”でき、議会の議決を要しないので“必ず実施できる“という違いがあります。生駒市は後者を選択しました。

 (2)については、生駒市が定める投票資格者(いずれも18歳以上)は以下です。これは地方自治法が認める「住民」の定義と同じであり、“普通に作成したらこうなる”ものです。実際、全国の住民投票条例のほとんどで同じ定義が用いられています。一般の外国人にとってこのハードルは非常に高いものであるため、一部で主張されている「外国人が大挙して押し寄せて生駒市が乗っ取られる」というような可能性は、あまり現実的では無いと言えるでしょう。永住者以外の在留資格者についても5年を超えないと有資格者にならないため、大挙して移住してもその“予兆”は事前に察することができるでしょう。参考数値として、制定直前の2014年5月時点で、投票資格者となるであろう97951人のうち外国人は559人で0.57%とのことです(朝日新聞・5月31日朝刊)。

 (3)については、例えば「投票率50%以上」といった要件を設けた場合、賛否どちらかがボイコット運動をすることで容易に不成立に持ち込むことが可能になってしまいます。実際、全国の事例を見るとボイコット運動で不成立になってしまった事案もあるため、生駒市では要件として設けず、むしろ賛否の意見が投票資格者総数に占める「絶対得票率」が重視されているということです。


市議会での争点


 「生駒市市民投票条例」案の審議にあたり、市議会での争点と、対する塩見さんの考えをまとめると以下のようになります。

  • (反対意見その1)そもそも論として、市民投票の制度は議員の職務放棄や議会不要論につながり、議会制民主主義の否定につながる。
    • (塩見)自分と100%意見が一致する人を選ぶことは困難であり、だからこそ議会も行政も、政策形成過程においては市民意思を丁寧に確認するべき。どうしても市民意思とのねじれが解消しない場合の手段として制度を容易すべき。あくまで最終決定するのは議会であり、議会制民主主義の範囲内に位置づけられる条例である。
  • (反対意見その2)投票資格者について、外国人を認めると外国から大挙して移住し、日本の国益を損なうような市民投票を直接請求しかねず、外国人参政権につながる。
    • (塩見)請求書名できるまでに5年を超えて国内に滞在する必要があり、また在留資格を与えられるのは専門技能をもって勤める人やその家族が主であり、大量移住は非現実的。他の自治体でもそのような事例はない。仮にそのような請求があっても、施策や事業、予算の最終決定権は議会にある。
  • (反対意見その3)発議者について、市民からの直接請求・議会での過半数での議決に加えて、市長単独でも発議できるのは、市長権限を強め、制度の濫用につながる。
    • (塩見)市長発議に対して議会での議決を要するとの規定を入れるべきという意見には合理性がある。しかし、投票の実施そのものについては権限を強めることになるが、本来、市長は市民の意思を確認せずとも議案を提案できるところを“あえて意思を問う”ということなので、市民との関係においてはむしろ“市長の独断を抑制する”と言える。市民投票の実施には経費がかかるが、濫用するような市長であれば議会が不信任を突きつければ済むこと。

その他、質疑応答など


 例会の参加者との質疑応答・フリーディスカッションのなか、次のような意見も出ました。参考までに付しておきます。

  • 住民投票をめぐっては、ある種の思いこみがあるかもしれない。「反対したいから住民投票したいのだろう」という思いのもと議会で否決されてしまう。実際は、住民の意思をしっかり確認したいというだけ。
  • 選挙は人を選ぶものだが、住民投票は○×を投票するもの。市長も全面的に新任されているわけではないので、個別の案件で市民の側が注文を入れたいことはある。
  • 住民投票に重きを置いてしまうと、議員が面白くない思いをするというのは分かる。ただ、議員みずから決めることを躊躇するような議題がある(例えば定数削減など)ことを考えると、住民投票の制度を設けておく意味はある。
  • 最近の沖縄県知事選挙は、実質上の住民投票だった。以前に県民投票があったが、知事が結果を尊重しなかったため今回のような選挙になったという見方がある。
  • 最初にどういう観点で○×に分けるかという難しさ。直接請求する側は、署名を集める段階でその案を作って付さなければならない。以前に米原市では四択の住民投票があったように思う。例えば二段階方式で投票すれば、より民意を問えることもあるのではないか。
  • その他の市民自治制度として、「市民提案制度」「まちづくり協議会」などがある。
  • 外国人の参政権という話でいえば、相対主義という考え方がある。投票は一国でのみ認められるべき。昔は、いわゆる在日の人は「本国で投票できないので日本で」と求めていた。しかし今は本国の法改正で認められるようになったので、日本とダブルで持つことになり、変ではないかという議論がある。
  • 生駒市のように住民投票資格を外国人にも認める例では、常設型住民投票条例を制定した約60の自治体のうち約40と、ほとんどの自治体で認めている。
  • 20歳以上ではなく18歳以上とする点も、ほとんどの自治体で同様。国の「国民投票条例」も18歳以上。
  • 条例案に反対する議員について、単に反対するだけというのは短絡的ではないか。修正案を作って出すべきではないか。

(以上)



以下連絡事項

 ① 12月は例会を休会し、次回は1月例会
 ② 12月6日 「なら・未来」市民会議 第1回 奈良県文化会館
 ③ 12月20日 地域自治を考える市民フォーラム きらっ都・奈良

(文責 中川)