2015年1月例会レポート

nara_mirai2015-01-24


 2015年第1回の例会は、元朝日新聞記者でフリージャーナリストの神野武美さんをお迎えし、「奈良県山間地域の持続可能性」のテーマでお話をいただきました。





1.講演の概要


(1)木材の備蓄を

  • 吉野地方の林業関係者「今後の震災に備えて仮設住宅用の木材の備蓄をすべき」
  • 東京などの大都市が震災などの大災害に遭えば膨大な量の仮設住宅が必要になる。現在は捨て切りされている間伐材をプレカット加工して備蓄することで、需要の低迷とコスト問題のため間伐や植林ができず荒廃する日本の森林を守るとともに、新しい地域経済の循環システムが生まれる。
  • 伝統構法の住宅は石の土台に木材を乗せ、ホゾやクサビでつなぎ合わせるので、解体しても再利用できる。また、柔構造で耐震強度も十分ある。丁寧に作って長く使うことができるので、20〜30年で建て替えが必要になる今の住宅より長期的に見ればコストも安くなる。
  • ただ、伝統構法には職人の技術・技能が必要であり、こうした技術・技能を引き継ぐための教育への投資が不可欠。
  • 木材の備蓄をきっかけに、森林の再生。林業の活性化、伝統構法の見直しとその担い手の育成といった流れを生み出し、地域循環の仕組みをつくるべき。
  • 現在、日本の森林における木材のストックはかつてないほどの量になっており、潜在的価値は大きい。


(2)林業を基盤に地域内循環の仕組みづくり

  • 住宅用に使われるAランクの太い木材はヘリで運搬されるが、それだけではペイしない。合板や集成材に次使われるBランク、足場に使われるCランク、さらには皮葉も含めて有効活用する必要がある。
  • 外材は規格品になっていて大量の需要に対応できる。それに対して国産材は、急峻な山から搬出するのに人手がかかり、もともと大量生産のベースには乗らない。施工まで含めて地域市場で循環するのが本来の姿。
  • リカードが提唱した国際分業が今の社会で主流となっているが、戦争や大災害が起こればそれが成り立たなくなる。資本主義経済には内発型(16世紀のイギリスなど)、国内産業破滅型(今の香港など)、モノカルチャー型(中南米など)があるが、最も基盤となるのは内発型であり、日本もここを目指すべき。
  • 需要があればBランク・Cランクの木材も使えるし、皮葉も一緒に下してバイオマス資源として活用できる。

(3)土倉庄三郎に学べ

  • 山林王と呼ばれた土倉庄三郎は、吉野林業の技術確立に尽くしただけでなく、高等教育への支援、吉野山の桜の保護、自由民権運動の推進、同志社大学日本女子大学の創立や奈良公園の開設への貢献など、近代日本にさまざまな足跡を残している。日本がものづくり大国と呼ばれ、ボーダーレス社会・国際化社会の中でも一定の地位を保っているのは、こうした先人によって伝えられ受け継がれた伝統文化・伝統技術があったから。
  • 土倉庄三郎が確立した吉野林業のように、100年かけて木を育て、確かな技術を用いて100年以上住める家にしていくというような、長期的な視点に立った地域づくりが今こそ必要。


(4)「自由なる空間としての吉野」を追求しよう

  • これまでの延長線上で考えていても森林再生の糸口はつかめない。自由な発想でいろいろな視点から考えてみることで新しいものが生まれてくる。


2.意見交換

  • 植林についての現状は?

→伐採が進んでいないので植林の余地があまりない。ドイツでは皆伐でなく択伐に転換しつつあり、日本でもそうした考え方が必要。

  • 吉野林業の特色として村外地主が多いことが挙げられるが、このことがB・Cランクの木材活用にとって足かせになっているのか。

→そういう面もあるが、だからこそこれまで吉野林業が守られてきたという側面もある。同じ山を複数の地主が所有しているために作業道がなかなか作れないといった問題があるが、この点については京都の日吉町森林組合の取り組みが参考になる。

  • 奈良県内の伝統的町家を修復するのに県産材の使用を促進するための提案をしたことがある。修復の需要とそれに必要な吉野材の供給量を試算し、町家大工の技術の伝承もそこに組み合わせた仕組み。

 →昔に比べれば、地元産材を活用した町家の再生の取り組みは活発化しつつある。

  • 吉野は私有林がほとんどを占めるが、その点も森林再生のネックになっているのか。

 →森林に対する課税の仕組みも見直すことが必要。

  • 吉野は山守制度で資本と経営を分離させたことも成功の要因。
  • 森林の再生には出口(間伐材などの活用)の問題が重要。高層ビルにも使えるほど強度の高いCLTパネルが脚光を浴びており、これを取り入れるのも一つの方法。
  • 吉野材は高くて、普通の住宅には取り入れたくても手か出ない。吉野ブランドにこだわるだけでは安定需要を確保することができない。
  • 需要拡大の1つの方法として、ログハウスの普及を促進しては?
  • 長野県などではガードレールに木材を使う取り組みが進んでいる。
  • 木材を圧縮することで燃えにくくする技術も発達している。
  • 学校の耐震補強が進められているが、長い目で見るとこうした対症療法的な対策よりも校舎を木造に建て替えるほうが耐震性も高くなる。
  • 紀伊半島大水害で十津川村が大きな被害を受けたが、捨て切り間伐が被害の拡大を招いた側面がある。これを教訓にしないといけない。
  • 大雑把な試算では、年間20〜30億円の予算があれば県内の森林すべてを毎年きちんと管理することができる。これを安いとみるか高いとみるかだが、さまざまな付加価値を考えれば決して高くはない。