「なら・未来」市民会議〜総合計画を市民のものに 第1回レポート


テーマ「総合計画の策定と運用について」
日時 2014年12月6日13:30〜16:30
講師:名古屋学院大学教授 西寺 雅也 氏


■ 講 演


地方自治法の改正により、市町村の「総合計画」に対する位置づけが多様になってきている。基本的に総合計画は行政活動の運営の柱と位置付けられ、大きくは「地域経営型」と「行政経営型」の2つに区別できる。 奈良市は起債残高が増加し続けているなど、財政状況が特異な傾向を示しており危機的な状況にある。総合計画の効果的な策定と運用が求められる。


市長就任当時の多治見市は、バブル期の放漫財政の影響により岐阜県下最悪の経常収支比率であった。また、行政(特に首長)の恣意的な政策選択により総合計画は実質的に機能していなかった。ここで財政再建施策の一環として財政緊急事態宣言を発し、計画性、総合性の担保を総合計画に求めた。


多治見市第5次総合計画策定(1998)にあたって「策定と運用」に関する8つのテーマを掲げた。

  1. 政策の実現可能性
  2. 市民・議員・職員の参加、「市民主体」「職員主体」の2つの策定委員会の設立と協働
  3. 地域課題をまとめた「討議課題集」を作成
  4. 「政策調書」による進行管理の徹底
  5. 市長の任期とのリンク
  6. 政策体系の組み立て
  7. 財政計画とリンクさせ、総合計画に記載されていない事業の不予算化
  8. 「行政計画」ではなく「市の計画」に


第5次総合計画後期実施計画策定時(2003)の10のテーマ=マニフェストに基づく見直し

  1. 拡大主義的な計画は作らない
  2. 行財政改革計画
  3. 持続可能な地域社会づくりを目指す
  4. 行政・市民の役割分担
  5. シビルミニマム」の確認
  6. 財政推計を計画に盛り込む
  7. 政策の優先順位
  8. 事業仕分け
  9. 建設計画から維持修繕計画へ
  10. 人口減少、財政縮小を前提


これからの時代状況を鑑みると、人口減少、高齢化、生産年齢人口の減少は納税者の減少、所得水準の低下、社会保障・福祉関連費の増加が見込まれる。また、社会資本の老朽化に対する管理、自然災害等に対する危機管理など、慢性的な財政危機状態に陥る危険性が懸念される。総合計画はこのような時代状況を認識し、これらに対応し得るものとして機能する計画でなければならない。


これからの総合計画策定における5つの戦略的課題

  1. 地域をどのようにつくり、地域内外をどのようにつなげるか
  2. 長期的な視点で、地域社会に必要不可欠な政策をつくる
  3. 地域ごとの違いに留意
  4. 社会資本の老朽化、過剰化、非効率化に注意
  5. 危機管理


以上のような戦略的視点に立って総合計画は次の7つのあり方が求められる。

  1. 計画策定を合意に基づく政策選択の場に
  2. 合意のための参加のデザイン
  3. 三位一体的(総合計画+財政計画+行政改革)な取り組み
  4. 政策過程全体(進行管理)への市民と議会の関与の徹底(ルール化等)
  5. 実施計画の行政による恣意性の排除と、これを許さないための計画
  6. 個別分野の計画との整合性
  7. 地域課題や総合計画に関する情報の共有化(事業別政策調書等による)


より効果的な総合計画の策定に向けて、市民参加のしくみを確立し機能させることが重要である。即ち、主権者市民による地域内分権(市民自治)の実現が求められる。

  1. 「自らの地域について自ら決定し、それに基づいて行動している」という実感の持てる政治
  2. 参加による合意形成、政策選択
  3. 声をあげない市民の参加を促す場づくり、市民と行政相互の訓練、ファシリテーターの育成
  4. 「熟議」できる参加の手法
  5. 参加のシステムは直ぐには作れないし、それを活用できる市民・行政職員も直ぐには現れない。必要な時に備えて、今から始めなければならない。


■ 意見交換


・時間とお金と労力をかけて作る総合計画書だが、読む人はいない。多くの市民が読む総合計画書の作り方とは?そのための工夫とは?
→ 余計な事は書かないで、実行する事だけを体系的に表現すること。多くの場合、実施計画(事業)が先に決まっていて、その理由づけのための基本計画であり総合計画となっている。だから言い訳じみていて大量になる。


・地区別計画の取り組み方とは?
→ 地区別計画については策定していない。まだ基盤整備途上という状況にあり、全市的な視点で総合計画は作られていた。地区別計画は地区毎の違いを認識し、小学校区毎の懇談会等での状況整理が効果的。地区毎に、市民や議員の要望を含めた課題をマッピングして公開し、町の状況を把握して市民計画につなげる。


・議会との関係性をどのようにつくるか?
→ 策定にあたって議会において特別委員会を設置。議員にとっては地元住民からの要望を形にすべきか否かの判断を含めた総合計画の議論となる。


・2つの策定委員会「市民策定委員会」「職員策定委員会」では争点を明らかにするために「討議課題集」を作成。議論をし易くする良いツールとなった。総合計画と実施計画とを一体的に捉えやすくできる。


・行政マネジメントシステムの中に総合計画を位置付け、新しい公共の領域や協働の達成度、進行管理など統合的に行なうようなチャレンジングな仕組みが必要であろう。


・総合計画と市長マニフェストは整合性を保たなければならない。ならば、基本構想に市民参加は不要で、市長が決めるべきではないか?企業は社長の理念で経営されるものだ。
→ 市長は全市民の信任を受けたのではない。マニフェストという理念をもって行政をマネジメント(調整・運営)することが大きな役割である。市長の任期と計画スパンを合わせる意義はこの点においても重要である。企業社長と社員の関係と、市長と市民との関係とは違う。


・市民の参加意識を高めるためのポイントとは?
→ 職員が現場に出て、市民との信頼関係を構築する事であろう。また、なにもかも市民に投げかけるのではなく、役割分担も明確にしなければならない。一方でワークショップ、ワールドカフェ方式のように広く関心を高める方法も活用できるのではないか。総合計画策定プロセスにおける市民への説明手法もまた検討すべき課題ではないか。


・総合計画の画一化、陳腐化はまぎれもない事実。いたずらに市民を参加させるとますます総花的になり目標項羅列型の総合計画となる。例えばゴミ問題について、いかに高性能な新しい焼却施設を作るかではなく、いかにゴミ減量を実現させるか、と考え方を変えて政策立案してゆかなければならない。
→ 思考の方向転換とそれを浸透させることには時間をかけなければならない。そのための工夫と知恵を出すことが行政の役割で、熟議のプロセスをはしょることなく進めて行かなければならない。ここに、市民の代理人として優秀な議員の存在も不可欠である。


・総合計画を市民が「私たちの計画」と認識できるようになることが目標である。
→ 総合計画は行政をコントロールするものであると同時に主権者市民を律するものでもある。故に自分たちで決めたと思えるような策定プロセス・手法であるべきである。