6月報告「なぜ悪くなったの?奈良市の財政」

「なぜ悪くなったの?奈良市の財政」

報告者 加門進二郎さん(奈良市の財政を楽しく学ぶ会代表)


奈良市民が作った財政白書」をまとめた中心人物の加門さんから、まず、「奈良市財政の問題点」をテーマに、他の中核市との比較を中心とした報告があった。


1・2012年に「巨額債務の原因は何か」をテーマに、奈良市財政白書を作成


 平成元年度(1988)〜平成21年度(2009)の決算および性質別歳出を他の中核市との比較で原因を追究。
 分析の結果、中核市平均と比べて、人件費・物件費が高い歳出割合であることに加え、実質単年度収支の連続赤字が大きいことがわかった。世間一般的には、財政悪化の要因が「起債依存の公共投資」とされているが、これは森を見ないで木を見るようなもの。資金に色がついているわけではなく、公共工事の借入金であっても人件費・物件費の歳出に多くが使われている。財政悪化の要因から現在どのような事態が推移しているのか、決算および財務4表から以下で指摘する。



2.2010年度以降の決算状況

(単位:億円)

(注)2011年度は2010年度に比し、普通建設事業費が74億円となっている。
   2011年度は保険所建設等の支出あり。
   2012年度の歳入の内、土地開発公社清算に伴う第3セクター債の起債額181.7億円含む。


<質疑>
・歳入に関しては、人口減と,納税者の業種別から見ると給与ベースの高い金融関係が減り低い福祉関係が増えていることから、必然的に歳入は減となる。
・2012年の増加は第3セクター債の発行による歳入増である。
・歳入を見ていくときの目安としては、人口推移統計によるのが最も現状を反映している。



3.新会計制度に基づく財務4表の分析


 平成18年(2006)6月成立の行財政改革推進法を契機に、資産・債務改革の一環として整備が位置付けられた総務省が提示した「基準モデル」「総務省改訂モデル」を活用し、発生主義、複式簿記の考え方に基づく財務4表を作成することとなった。

●「基準モデル」:最初に公有財産についての実地調査と再調達原価による評価を網羅的な台帳に整備した後に、完全な複式簿記・発生主義による帳簿記録を作成し、その記録から財務諸表を作成する、財務会計のモデル。(自治体の財政的な実像をもれなく直接的に描き出すことが重視される)

●「総務省改訂モデル」:従来からの予算・決算のための自治体会計をベースにして新たな財務諸表を作成するもの。そのため導入段階において、資産については概数にならざるを得ない。概数であるとしても財務諸表の多くは、決算書の数値と直接的に結びついており、過去からの歳入歳出の実質分析評価する上で有用である。(政策目的別に区分した数値が表示される)


◎参考 公会計と企業会計について

  公会計の行政コスト計算書は、政策区分的に歳出を示すものである。
  企業会計における損益計算書は、純資産計算書の「その他一般財源等の増減」に表示されていると考える。


(1)決算の状況を中核市と比較(財政規模が異なるため、住民一人当たりで検討)


 ・東洋経済の「地方自治体財務総覧2013」から算出。
 ・「基準モデル」「総務省改訂モデル」に関わらずすべての中核市を入れる。


 実質収支の状況(住民一人当たり)       (単位:円)


奈良市の場合、辛うじて黒字決算を維持している現状。
2011年度では中核市との差額6,990円であるが、2011年度の住民基本台帳人口全体でみると、中核市平均では25億円の黒字だが、奈良市は1.5億円である。この差が累積していく。


<質疑>
・赤字の原因は、主に清掃業務と幼稚園の直営だと考える。


(2)純行政コスト計算から中核市奈良市の行政コスト比較


性質別純行政コスト:住民一人当たり比較(1)           (単位:円)                    

 (参考 住民一人当たり金額1000円は、2011年度では3.63億円になる。)

・「人に関するコスト」は、幼稚園と清掃業務の直営などの原因から、中核市平均より高くなっている。 
・「移転コスト」は、扶助費等の増加が財政を圧迫しているといわれているが、奈良市の場合中核市平均を下回っている。
 
   「人に関するコスト」=人件費+退職引当金繰入+賞与引当金繰入
   「物に関するコスト」=物件費+維持補修費+減価償却
   「移転コスト」=社会保険給付+補助金+対会計への支出等+他団体への公共資産整備補助金
   「その他コスト」=支払利息+回収不能見込計上額+その他行政コスト


<質疑>
・移転コストは、住民サービス内容と密接に関係しているのだが、中核市平均より低い。ここには生活保護費、国保・老人保健の繰り出しが含まれている。これだけ住民サービスを抑えていてもなお財政がこんなに逼迫していることが問題。
・その他コストが高いのは、回収不能見込計上額が高いと考えられる。市営住宅家賃の未収を回収不能としたことも一端と考えられる。

目的別純行政コスト:住民一人当たり比較(2)  (単位:円)

  (比較は総務省改訂モデル自治体の数値)

・比較によると、環境衛生コストのみ中核市平均を上回っており、他は総じて中核市を下回っている。住民生活に関連した、生活・インフラ、教育、福祉のコストが低い。低いコストで質の高い行政運営がなされていればいいのだがそういえるのかどうかは、今後の検証の課題。

・特に財政の厳しさから総務関連コストが低く抑えられているが、これは行政改革実施の成果なのか。産業振興の2009年度は、平城遷都1300年記念事業による支出か。総じて言えるのは、財政悪化から、住民生活支援のコストが低迷しているということ。<質疑>
・通常はアウトソーシングすれば、物件費が増える分だけ人件費が減るはずである。だが奈良市の場合どちらも増えていることから、アウトソーシングしても財政的な効果が出ていないと言える。



(3)−1 住民一人当たり資産・負債           
 (単位:千円)

奈良市のHP財務諸表より、ただし、「うち地方債」は東洋経済地方自治体財務総覧2013から算出)
 *純資産=資産−負債

中核市との比較において、毎年非核自治体数が変わっているが、意図不明。
 奈良市HP:2010年度(基準モデル1自治体、総務省改訂モデル20自治体)
       2011年度(基準モデル1自治体、総務省改訂モデル26自治体)
       2012年度(すべて総務省改訂モデル自治体)
 地方自治体財務総覧:2009年度(28都市)、2010年度(27都市)、2011年度(29都市)     
           いずれも財務諸表収集可能な総務省改訂モデル採用自治
・2011年度の資産・負債等は、住民基本台帳の人口から推計すると、資産は中核市平均との比較で743億円少なく、負債は581億円多い。地方債は、551億円多いことが読み取れる。

・この実態について、HPの財務諸表の中でもその原因は何であるかについて、市民に十分な説明がされていない。



(3)−2  住民一人当たり区分別資産 
               (単位:千円)

・行政目的別住民一人当たり資産は、福祉・総務関連資産を除いて中核市平均より少ない。
住民基本台帳に乗ずると、生活インフラ資産は385億円、産業振興資産は125億円、流動資産123億円と、中核市平均より少ない。



(4)資金収支計算書                       
 (単位:億円)


起債内訳
  
                          (単位:億円)

◎資金収支計算書から
  赤字地方債(臨時財政対策債・退職手当債・第三セクター債)の起債ウェートが非常に高まっていることが顕著である。また、その返済条件は、退職手当債が4年据え置きの20年償還、臨時財政対策債は3年据え置き20年償還、第三セクター債は原則10年であるが奈良市は20年償還等、問題先送りの施策である。

◎退職手当債について
  平成22年度決算において、退職手当債を起債している奈良県下の自治体は39団体中6団体である。(ちなみに大阪府は、33団体中12団体)

◎現在の奈良市は、過去の多額の借金(起債)から極めて厳しい状況にあるが、最近の決算を見ても起債が償還を上回っており、借金減少の方向性が見えない。

臨時財政対策債は、地方交付税の減額への国の対策として、その償還については交付税措置されるという見方もある。しかし、交付税措置された起債償還財源も使途が決められているのではなく一般財源の中に混じってしまうので、交付税全体の額の動向によってその償還が大きく左右される。現に奈良市の場合、その償還が大きな負担となってきている。(2012年度 償還実績 16億円)

◎他に、過去の減税補填債も15億円ある。


<質疑>退職手当債には、一部事務組合の退職手当も含まれている。


住民一人当たり  資金収支額比較            (単位:円)

◎経常収支額は、中核市平均より大きく下回っている。赤字地方債の臨時財政対策債を発行限度額いっぱい起債し、また退職手当債を起債してこの状態である。(退職手当債を起債していない自治体もある)

公共投資資産整備は、経常収支額が下回っていることから抑制的に行われている。

<質疑>
・対応策として、若者の流入を図るためには、中古住宅に自治体がどのように介入するのか。国家公務員の官舎の活用。総合計画と財政計画を合わせた、長期財政計画を出す。ファシリティマネージメントについても検討。



(5) 純資産変動計算書                  (単位:億円)

◎公共資産等整備国県補助金
 この金額は、国・県の補助金で公共資産を整備した額で、債務を伴っていないので純資産に計上

◎公共資産等整備一般財源
 この金額は、自治体が経常一般財源の中から公共資産を整備した金額と過去に地方債を起債して公共資産を整備した額の内、償還が実施された金額。

◎その他一般財源
 この金額は、赤字地方債を除いた経常収支から減価償却額を差引して、企業会計でいう利益部分を算出。
 地方債(公共投資整備)の償還額を一般財源に財源振替して賄うという仕組みである。この金額が、毎年毎年赤字を続けることは正に自転車操業を行っていることに他ならない。
 各自治体ともに、この「その他一般財源等」赤字であるが(地方交付税が減額されたため、臨時財政対策債の起債増加による)、奈良市の場合、この金額の赤字幅が大きいことである。<質疑>

・△231とマイナス額が増加しているのは、三セク債の償還によるもの。



2011年度 住民一人当たり 純資産の内訳  (単位:千円)

 (総務省改訂モデル採用27中核市との比較) 
     
◎純資産の少ない原因
1・過去の一般財源の起債による公共投資を行い償還された公共資産部分が少ない。反面、国と県の補助金による公共資産は見劣りしない。
2・その他一般財源等の赤字部分が多い。人口に比に戻すと306億円多い。赤字決算の影響がこの部分に出てくるのではないか。
3・貸借対照表の資産規模も中核市平均より少ない。


果たしてこの内容から、巨額債務の原因を過去の起債依存の公共投資といえるかどうか。
参考までに、奈良市政経営課に確認した中核市比較:
平成22年度(2010年度)総務省改訂モデル26団体の平均値は△706億円、奈良市は985億円であった。

<質疑>
 平成元年から平成21年の動向を見ると、財政規律が欠けていると思わざるを得ない。



(6) 最近の決算書および財務4表から見えて来たもの


◎決算収支も単に黒字としている状態で全く余裕なし。
  実質単年度収支も6年連続マイナスである。財政調整基金も底をついている。
  (家計でいえば、赤字決算の連続の上、貯金もへそくりもない状態)
 
◎行政コスト計算書からは、住民一人当たり各コストは環境衛生を除いて、中核市平均を下回っている。行政の提供する住民サービスを金額でみると大きく低下しているといえる。
 
◎資産・負債では中核市平均より資産が少なく、負債(借金)が多い。過去の高コスト体質によるものと判断する。
  奈良市の場合、財務書類は総務省改訂モデルで作成されており、固定資産台帳を整備すれば資産がもっと増えるという意見もある。中核市との比較では、そのほとんどが総務省改訂モデル実施自治体であり、他の自治体も増加する可能性があり、その意見通りにはならない。

◎資金収支計算書、純資産変動計算書からは、赤字地方債を起債した実質赤字決算となっており、加えて公共資産整備に伴う償還額を含めた一般財源は大きくマイナスとなっている。



(7)今後の方策


 ◎市民に対して財務状況を過去の広報の範疇で行うのではなく、財政の悪化がどのような状態にあるのか市民に告知すること。また人口減少は避けられないとの見方が一般的であり、人口増のための施策は当然必要であるが、将来起きる人口減少の影響をしっかり市民に説明し、議論の土台としなければいけない。

 ◎財政悪化の原因である借金がいつ減少するのかしないのか。赤字地方債の発行額が大きくなっているが、返済のピークも5年以上先になることから、単に3年、5年程度の収支を想定するのではなく、既存政策を見直した財政規律の確立が必要である。まお、財政規律は行政当局のみではなく、市議会議員も当然追わねばならない。



年度ごとの起債償還見込み額                    (単位:億円)

 (上記は平成24年度の見込み予想であり、この金額に平成25年以降起債分の償還が加わる)


過去の元利償還額実績

◎上記の年度ごとの償還見込み額には、クリーンセンター、斎場等の建設資金に伴う起債額は含まれていない。
合併特例債で起債したとしても、その償還の30%は一般財源での償還である。

平成28年度以降は退職手当債の起債はできないほか、合併10年後は交付税が10億円程度逐次減額の見込みであり、収入のマイナス要因が予測される。

◎公共資産の老朽化は中核市平均より高い水準にある。将来人口減少を予測した公共施設のマネージメントが必要である。将来に備えた数値目標を市民に開示すべきである。総論賛成、各論反対では何も生まれない。

◎これだけ財政状況が悪化した現在、いつまでも将来世代に負担を押し付けることは不可能である。「財政危機宣言」に対して市民の不安を高めるだけとの意見もあるが、果たしてそうであろうか。財政破たんした時、市民には国等が面倒見てくれると思う市民もいるのではないか。 
 すべて市民負担の上で、改革が必要なことを市民に訴えることが肝要。新たな市民負担も含めて真剣な議論が必要。


<質疑>
・3000億円の負債の償還の ためには、10年の長期見通しが必要。
・クリーンセンターの新設が必要なのか(広域連携の可能性も検討すべき)、住民サービスカットができないのかなどの検討が必要。